憲法の話③

非戦の誓い―――剣を打ち直して鋤とし、平和を実現する人々は幸いだ

 

日本国憲法

自由民主党改憲草案

第二章   戦争の放棄

第九条    日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

二章 安全保障

(平和主義)

第九条    日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない

2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。  

<以下、新設>

(国防軍)  第九条の二    我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。

5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

(領土等の保全等)  第九条の三   国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

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九章 緊急事態    (緊急事態の宣言)  第九十八条  内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。    2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。  3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。    4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

(緊急事態の宣言の効果)    第九十九条  緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。    2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。  3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。    4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

 

1. 条文批判

『憲法』九条の平和主義は、戦争放棄・戦力不保持・交戦権否認の三要素からなります。『草案』はまず章立てを「戦争放棄」から「安全保障」とします。これは米国との二国間軍事同盟を前提しています。そして、「九条の二」を新設し、「国防軍」という戦力保持を明記します。これは自衛隊を普通の軍隊とする内容です。さらに、九条2項を完全に書き改め「自衛権を用いての交戦」を肯定します。これは集団的自衛権をも肯定する内容です。以上のように『草案』は「平和憲法」の本質的要素を完全に破壊する「壊憲草案」です。そしてあまりにも政権与党である自民党の政策を追認する内容です。

今回の『草案』にはもう一つ見逃せない点は「国家緊急権」を盛り込んでいることです。それは、非常事態が起こったときにある程度の人権を制限しても国家に大きな権限を与えてもよいとする考えです。国権の発動たる戦争は国家緊急権の典型例です。だからこそ明治憲法に明記されていた国家緊急権を『憲法』は排除したのです。原発事故の対応の拙さを『憲法』の内容不備(国家緊急権を明記していない)に帰すことはまったくの論のすりかえです。今まで原子力行政を引っ張ってきた自民党が言うべきことではありません。

もし国防軍の保持と国家緊急権が明記されたらどうなるのでしょうか。国内においては軍隊が「社会の秩序(時の政権が定める秩序)」を守ると称して緊急事態を宣言し、どのような人権侵害をも行うことができるようになるでしょう。そしてその人権侵害の犯罪を裁くことすらできなくなるでしょう(国防軍審判所)。国外においては米国の行う戦争にすべて参加することになるでしょう(集団的自衛権行使)。そこに国民が協力しなくてはならなくなるでしょう。これは正にいつか来た道です。『草案』は明治憲法への復古を目指しています。

 

2. 九条を改悪したい人たち

「九条は米国に押し付けられた。だから自主憲法を自らの手で作って、自分の国を自分で守らなければならない」との言葉は真実でしょうか。九条の示す平和思想の原型は日本国内にも制定当時あったので決して押しつけではありません。仮に押し付けられたとしても良いものは良いのだから変える必要はありません。米国からの押し付け憲法に反対する人は、今米国に改憲を押し付けられていることにも反対すべきでしょう。

米軍基地も自衛隊も日米の軍産複合体の利権のために発生した現実です。軍事同盟関係の強化、日米安全保障条約と米軍基地存置の恒久化、自衛隊の軍備増強・活動範囲拡大と九条の解釈改憲、これら日米政府が作り出してきた九条違反の歴史も批判的にとらえなくてはいけません。九条は非戦の誓いという国際公約、特に東北アジアの人々に向けての約束です。決して日米の一部の人たちの利権のみを優先させて改変を議論してはいけないのです。「現実に憲法九条が合っていないから変えよう」という論も、この現実をなし崩し的に作り出してきた自民党が語るべきではないでしょう。むしろ、単純かつ保守的に憲法違反の現実をこそ批判し、現実を憲法に合わせる努力をしたいものです。剣を打ち直して鋤とする努力です。

 

3. 九条を活かす道

「軍隊は国民を守らず国家を守る」ということは世界的にも常識ですし、わたしたちは沖縄戦からもそのことを学んでいます。そして「丸腰こそ安全」ということをアフガニスタンの中村哲さんの実践からも学んでいます。また非暴力的な紛争解決の仕方を、沖縄の阿波根昌鴻さんの実践からも学んでいます。平和憲法に照らして憲法違反の政策を止めさせましょう。

日米安全保障条約は、日本政府側が一言止めると言えば終わる契約です。そうすれば在日米軍基地という九条違反(戦力保持)が改善されます。核の傘から出て非核の傘・非軍事の傘をつくりましょう。軍事同盟ではなく東北アジアを中心にして友好条約の輪を広げるのです。沖縄をはじめ世界中から米軍基地・軍事施設を失くしましょう。

自衛隊を武装解除し災害救援隊に改組しましょう。そうして国内外の災害救援のために働いてもらいましょう。また、プルトニウム(潜在的戦力)の保持を止め、核兵器も核発電も棄てましょう。力に頼らず率先して丸腰になるのです。

国連憲章に憲法九条を書き込ませましょう。個別的自衛権すら認めない、交戦権を放棄することを世界の常識としましょう。武器ではなく九条を輸出しましょう。そうすれば原子力マフィアを含む国際的軍需産業の金儲けにわたしたちは加担しなくて良くなるのです。

もし敵に侵略され領土を奪われたらどうしましょう。無条件降伏し、左の頬を差し出しながら話し合いで解決を目指し、暴力的支配者には非暴力的に抵抗する、ただそれだけのことです。それが平和の主、神の子イエス・キリストに従う道です。