知憲のススメ4 「前文」その四

 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務である。

 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

今回は「前文の第三段落・第四段落」です。これでやっと長い前文が終わります。社会科の授業などで前文の丸暗記が課題だった人もいるかと思います。覚え切った人には心からの賛辞を込めて拍手したいです。本当に長い文章なのですから。

第三段落の主語は「われらは」ですが、それを受ける述語が見当たりません。「責務である」の直後に「と考える」と補う必要があります。主語・述語関係のような日本語文法上の整えは大切ですが、しかしより重要なのは条文の内容そのものです。

国際政治には倫理が必要だということを第三段落は力説しています。それは、どの国家もお互いに支配・被支配の関係に立たないという道義です。相手に対しては威張らないし、自分自身を卑下しないで、対等な関係でお付き合いしましょうということです。このことは「大日本帝国」の時代(1868年-1945年)に、日本が自分の国の利益ばかりに専念しつつ、隣国に対して威張り散らして支配者になろうとしていたことに対する反省なのです。

前回取り上げた平和主義もそうですが、あらゆる法律にはその法律をつくる理由(立法事実)と目的(立法趣旨)があります。日本国憲法の場合は、大日本帝国の敗戦と崩壊からの立て直しが、制定の理由と目的にあたります。そういうわけで、戦争を国家にさせないで一人ひとりが平和をつくるためにどうすれば良いかの工夫が、憲法には明記されています。支配欲を乗り越えよう、各国を対等に扱おうという工夫です。これは日本国の外交の基本方針を定めたもので、この方針に沿った平和外交を行う義務が政府にはあります。日米安全保障条約という軍事同盟を米国とのみ結んで米国に服従することや、隣国への差別意識・競合関係をむきだしにすることは、前文の第三段落に反します。

第四段落の誓いも、憲法制定の理由と目的に照らせば理解しやすいでしょう。条文に誓いがなじまないと批判する人もいます。そんなことはありません。加害行為への反省も含めて戦争の惨禍を良く知り、平和な国をつくり平和の輪を国際的に広げていくということが、憲法の制定理由であり制定の目的だからです。そしてこの目的は人類がいまだに到達できていない未知の領域・「崇高な理想」なのです。誓うぐらいの強い決意が必要です。

「憲法制定時と国際情勢が変わったので平和外交よりも集団的自衛権限行使/平和憲法改定すべき」という意見があります。制定時の方が、隣国に軍事的緊張が高かった事実を無視しています。その状況でも強い平和への決意を誓った先人たちにならいたいものです。そしてもし現実と理想が離れている場合には、現実を理想に近づける努力をしたいものです。