知憲のススメ15 第8条【皇室の財産授受】

皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、もしくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

  

8条は「第一章 天皇」の締めくくりの条文です。そして88条の皇室財産・皇室の費用についてと対応しています。8ばかりつくので覚えやすいものです。

まずは言葉の説明から。「譲り渡し」「譲り受け」という言葉は「ただであげた」「無償でもらった」かのように受け取られがちです。しかし法文上は、普通の売買のことを指します。ただであげることは「贈与」という別の言葉で言い表します。

さらに、なぜか皇族が主語となると「贈与」のことを「賜与(しよ)」と言います。ここにもまだお上意識が残っています。大相撲で優勝力士に贈られる「天皇賜杯」のように、「賜」という字は「上から贈られる有難い物」という含みを持ちます。この言い方そのものに平等原則(14条)との緊張があります。なお皇室典範には皇族に対する敬称についてまで定められています(皇室典範23条)。

この条文の内容はとても厳しいものです。皇族は日常生活における一切の買い物について国会の議決がなくてはできないということだからです。しかも、憲法内部に例外規定(「ただし~の場合を除く」等の定め)もありません。ここにこの条文を入れ込んだ人々の強いこだわりを見るべきでしょう。

この条文に対応するものは明治憲法にはありません。ということは「立憲主義や国民主権、基本的人権の尊重、平和主義など日本国憲法の基本原則を強めるために新規増設された条文」と考えるのが素直です。国会の議決によらなければ皇室は財産を処分できないようにしたということは、天皇制を民主的なコントロールの下に置こうという意思の表れなのです。

なお皇室経済法2条は憲法8条の例外規定を定めています。その内容に基づいて、皇室は次のような場合には国会の議決なしに財産の授受を行っています。(1)相当の対価による売買等の通常の私的経済行為。(2)外国交際のための儀礼上の贈答。(3)公共のためになす遺贈・遺産の賜与。(4)上記以外の場合、年度ごとの一定限度額内。

この例外規定が妥当かどうかについて、主権者が判断する必要があります。