2017/06/07今週の一言

 6月7日の「聖書のいづみ」はお休みでした。今回は読書感想文です。

 話題の本『隷属なき道――AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』(ルトガー・ブレグマン著、野中香方子訳、文藝春秋、2017年)を読みました。原題は、Utopia For Realists: And How We Can Get Thereです。原題を直訳すると、「現実主義者のための理想郷:そして、どのようにしてわたしたちはそこへと行き着けるか」です。お勧めの一冊です。

 29歳の若き著者の主張は大胆な希望です。ただし、非常に実証的なデータに基づいているので、あながち「夢想」とまでは言えません。いや、夢想どころか闇の世界に差し込む一条の光のように思え、大いに励ましと刺激を受けました。

 大まとめに言うと、ベーシックインカム制度を導入することで貧富の格差を解決すること、技術革新を否定せず(むしろ促進させ)一日三時間の短時間労働を達成させること、そして国境を撤廃して移住を完全に自由にすることです。これらの社会変革によって現在の世界が抱える多くの課題を解決するべきと、著者は提言します。

 ベーシックインカムとは、受給資格を問わずにすべての人に定額の現金を支給することです。例えば、国が毎年150万円をすべての国民に、国民であるという理由だけで、支給するということです。支給された金の使途はまったくの自由、何に使ってもお咎めなしとします。非常に大胆な富の再配分方法です。

 この制度は福祉制度の撤廃と抱合せのものです。基本的には申請しなければ受けることができない生活保護その他の福祉の仕組みを、ベーシックインカムに一本化するので全体としては簡素になります。線引きをする必要がなくなるので行政官の心身の負担も軽減されます。

著者は機械化によって1970年代まで順調に短縮されてきた労働時間が、現在逆に延伸されていることに注意を向けます。興味深いことに、長時間労働が課されている日本のような国では、テレビを観る時間もまた長時間であるという傾向です。こうして人は、仕事とバラエティ番組にしか興味を示さなくなり、現状を変革する時間と気力を奪われていくのです。

パスポートとビザが世界中に普及したのは第一次世界大戦以来なのだそうです。スパイの取り締まりのためです。「昔のように国境を開いたらどうだろうか」という提案は、「サマリア人が倒れたユダヤ人を助ける物語」に似た衝撃を与えます。なぜこの提案に抵抗を覚えるのか、自己吟味が迫られるからです。

ところどころに聖句が散りばめられた良書です。JK