2018/11/28今週の一言

11月28日の「聖書のいづみ」ではサムエル記上9章18-21節を学びました。預言者サムエルとサウルの初対面の場面です。

ヤハウェ神からサウルについて告げられていたサムエルは、自分のなすべきことを知っています。サウルに対してイスラエルの王になるようにと就任依頼交渉をすることが、彼の任務です(16節・20節)。それに対してサウルの心の中には、いなくなった雌ロバについての心配しかありません(6節)。雌ロバがどこにいるのかを教えてもらうために、ラマのサムエルの家を訪ねているからです。

サウルは相手がサムエルとは知らないまま(確証を持たないまま)、当のサムエルに「先見者の家はどこでしょうか」と尋ねます。サムエルは自分が先見者であると告げ、それを証明するかのように、「三日前に姿を消したろばのことは一切、心にかける必要はありません。もう見つかっています」と告げます(20節)。サウルは、これぞ先見者と思ったことでしょう。

サムエルは畳み掛けるようにして王の就任依頼交渉に入っていきます。20節後半は「全イスラエルの欲望はあなたに」とも訳せますし、異読に従えば「全イスラエルはあなたに属する」とも訳せます。自分たちを所有する王が欲しいという、少々倒錯した民意が、サウルをイスラエルの初代王に押し上げます。

サウルは恐縮し、謙遜な態度で王就任をやんわりと断ります。「最小の部族ベニヤミン、特にギブアから、何の良きものが出ようか」という具合です(21節)。士師記20章にはサウルの出身地ギブアの住民の蛮行が原因で、ベニヤミン部族が他の部族たちによって徹底的に人口を減らされた悲劇が記されています。サウルは単に謙虚なのではなく、直近の歴史事情を踏まえて答えています。

サウルはサムエルに問います。「そしてなぜあなたは、この出来事に従ってわたしに向かって語ったのですか」(21節私訳)。この「出来事」を狭く捉えれば、雌ロバ失踪事件を経てサムエルと出会うという、従者たちに対する「不思議な導き」のことを指します。広く捉えれば、負の歴史を経て最も小さくされた者が選ばれるという「不思議な選び」のことでもあります。聖書の神は、世界の片隅で肩身の狭い思いをしている「小さくされた者」の神です。

クリスマスは神が「小さくされた者」となった出来事です。ベツレヘムに現れた神は、ガリラヤで小さくされた者たちと連帯し、エルサレムで小さくされた者として殺され、よみがえらされて全ての小さくされた者たちに命を配られました。この出来事に従って語り・生きることが求められています。JK