2020/02/03今週の一言

ヘブライ語の単語は一文字では存在しません。一文字だけの品詞というものがあるにもかかわらず、単語レベルでは一文字というものがありません。例えば接続詞の場合はW、前置詞の場合はB、K、L、冠詞の場合はHに当たる一文字が立派な品詞です。ところが、表記する時にはこれらの一文字の品詞は、次の単語と接続されてしまいます。一単語なのに二つの品詞を持つことがありうるということです。

英語と比較してみましょう。英語の冠詞の一つに「a」というものがあります(不定冠詞)。この一文字の品詞は一文字の単語として表記します。英語は一文字の単語を許すという文法だからです。たとえば「a king」(とある王)という風に書き表します。二単語で二つの品詞です(冠詞と名詞)。もしヘブライ語のルールであれば、両単語の間の隙間が埋められて「aking」と書かなくてはいけません。英語のルールを中学校から叩き込まれているので、わたしたちはヘブライ語のルールを奇妙だと感じます。「一文字の品詞を一単語としてなぜ認めないのか。なぜ分かち書きをしないのか」と批判したくなるわけです。

視点を変えて日本語との比較をしてみましょう。日本語は基本的には単語ごとに分かち書きしないというルールの言語です。言語学者は「膠着語」などと呼びます(若干失礼な言い方に聞こえるのはわたしだけでしょうか)。たとえば「蚊」という一文字の名詞も、「を」という一文字の助詞も連続して書きます。「蚊を」という具合です。日本語は平仮名・片仮名・漢字という三種類の文字を組み合わせながら表記します。そのため、ある意味の分かち書きが行われています。たとえば片仮名を見ると外来語の名詞がまず疑われます。漢字の直後に「は・の・に・を」等の平仮名があれば、「名詞と助詞の組み合わせ」であることの察しがつきます。先ほどの「蚊を」という例です。また、「ははははははと笑った。」という一文を、日本語話者は読者のために「母はハハハと笑った。」と書くはずです。

そういうわけで日本語の特徴を知っていれば読者は決して膠着せずに日本語を読解することができますし、日本語の文の中で単語ごとに分かち書きされていないことに殊更目くじらを立てる人はいません。

同じことがヘブライ語にも言えます。一文字接続詞と冠詞の特徴から、どうしても一文字の品詞は次の単語と融合しなくてはいけないというヘブライ語固有の事情があるのです。慣れればすぐに了解できます。それを奇妙と言う前に、相手にも固有の事情があるのではないかと優しく共感することが大切です。英語が唯一絶対の基準と思い込んでしまう「植民地主義」からも解放されたいものです。 JK