2020/12/31今週の一言

2021年の干支は丑(ウシ)です。年頭にあたり今回は牛から連想の翼を広げたお話を一つ。

牛は聖書でおなじみの動物です。聖書の登場人物たちは牛を家畜とし、耕作に用いたり、酪農をしたり、食用としたり、さらには宗教儀式の犠牲獣としても用いたりしていました。牛は財産であり、豊穣の象徴でした。エジプトの王ファラオの見た夢が示す通りです(創世記41章)。

ヘブライ語にとって牛は興味深い対象です。ヘブライ語のアルファベットの第一文字を「アレフ」と言います。元々は象形文字で、角がついている牛(アレフ)の顔面の絵からできた文字です。二つ目の文字「ベート」と結びつけて「アレフ・ベート」。そうです。アルファベットalphabetという言葉の語源は、ここにあります。厳密に言えば、フェニキア人たちが発明した二十二文字から成るフェニキア文字を、ヘブライ人たちが借用したということになります。

その後、同じフェニキア文字をギリシャ人たちも借用し、独自のアルファベットを発展させていきました。ギリシャ語の第一文字アルファと第二文字ベータを結びつけて「アルファ・ベータ」alphabetと言うことは、欧州と中東が文字の歴史において共通の起源を持っていることを示しています。ギリシャ語は印欧語族(英語等)、ヘブライ語はセム語族(アラビア語等)。両者の文法は全く異なりますが、欧州と中東は思ったよりも近い存在です。一つの「汎地中海世界」です。

ヘブライ語の中で「アレフ」はさまざまに発展し派生していきます。おそらくは牛の群れから連想して、「千」(エレフ)という単語が生まれます。同じエレフは同時に、人間の群れである「親族」「氏族」という意味も持ちます(ミカ書5章1節)。「長」という言葉と結びついて「千人隊長」という意味にもなります(出18章21節等)。さらに母音の読み方を変えた派生語アルフは、その一単語だけで「首長」を意味するようになります(創世記36章19節等)。

ミカ書5章1節「ユダの諸氏族の中で」を翻訳しつつ引用したマタイによる福音書2章6節は、「ユダの指導者たちの中で」としています。一見すると全く別の単語ですが、預言者ミカも福音書記者マタイも同じヘブライ語単語を見ています。というのも、母音記号が発明され確立したのは紀元後5世紀のことだからです。マタイ教会が福音書を編纂した紀元後1世紀の時点、子音アルファベットだけで旧約聖書は書かれていました。つまり「エレフ(氏族)」も「アルフ(首長)」も同じ綴りなのです。JK