2021/12/22今週の一言

「モーセの律法に詳しい書記官」(エズラ記7章6節)であるエズラという男性は、キリスト教会ではあまり注目されません。しかし、正典宗教に対する貢献度は非常に高い人物です。エズラがバビロンで編纂された「モーセの律法」をエルサレムに持ち込んだと推測されるからです。「モーセの律法」という一冊の本をヘブライ語で「トーラー」と言います。エズラが持ち込んだトーラーは、現在の創世記・出エジプト記・レビ記・民数記・申命記という五書の原型です。

エズラはただの運び屋ではありません。おそらく彼は、この時点でのトーラーの最終編纂責任者です。トーラーは第二次バビロン捕囚(前587年)の後、バビロンの地で匿名のユダヤ人思想家たちによって長期間にわたって編集された本です。バビロンの地にある会堂での安息日礼拝に用いられるために、すなわち祖国を失ったユダヤ人信仰共同体の日常生活を導くために、編み出された正典。それがトーラーです。エズラが約束の地に「帰還」したのは前458年のこと(前398年とする学説もあります)。この130年間トーラーは、毎週礼拝で朗読されながら民を導きました。その一方でトーラーは、民によって新しい状況に適合させるための加筆や削除等微修正を被り続けました。

エズラもこの微修正の作業実務を行っていた一人かもしれません。「エズラは主の律法(トーラー)を研究して実行し、イスラエルに掟と法を教えることに専念した」(7章10節)という一文は、その可能性を強く推認させます。彼はトーラー研究の第一人者であり、トーラー解釈・説明の第一人者でもあります。トーラーを解釈する行為は、トーラーへの付け加えや、削除を行うことに直結しうる行為です。

前458年にバビロンでのトーラー編纂を「完了」させ、エズラは生まれ育ったバビロンを離れ約束の地へと旅に出ます。彼の心には、バベルの塔の物語があったことでしょう(創世記11章)。「良い意味で散らされて行こう。しかしばらばらにならない共通の言葉・正典を携えて」。また彼の心にはアブラム・サライ・ロトの物語があったことでしょう。「あなたは父の家を棄てよ。わたしが見せる地に行け」(創世記12章)。また外国で書記官にまで上り詰めたエズラにはヨセフの心境もよく理解できたことでしょう(創世記37-50章)。第二のモーセとしてトーラーを携え、モーセが入れなかった約束の地にエズラは赴きます。 JK