2022/10/05今週の一言

東京バプテスト神学校の後期講義においてルツ記を冒頭から一節ずつ原典講読することにしました。できれば全部読破したいと思っています。自分自身の勉強にもなるので、この紙面を借りて直訳風私訳と、そこからの着想を書き留めておこうと思い立ちました。途中で挫折したら無理せずにこの企画は即座に中止といたしますが、可能な限りコツコツ続けていく所存です。よろしくお付き合いください。

【1章1節】

そしてその士師たちの裁きの日々にあったことです。そしてその地に飢饉が起こりました。そしてユダのベツレヘム出身の男性はモアブの野で寄留するために行きました。彼と彼の妻と彼の二人の息子が(行きました)。

「そして・・・にあったことです」と「そして・・・が起こりました」は、原語においては全く同じ一単語です。「ワイェヒー」という頻出語、直訳は「そしてそれは成る」です。ルツ記の冒頭は、全ての物語が特定の歴史の中で生起し成立するものであることを示しています。「その士師たち」「その地」は冠詞つきです。

「士師たち」は「裁判をする者たち」という意味の言葉です。イスラエルは王制の前に、士師たちの裁判によって部族ごとに統治されていました。ダビデ王朝が始まる前であるということが、ルツ記の末尾と対応しています。この小さな短編小説の最後に付された系図が、「士師たちの裁きの日々」(ダビデ王の前)という仕掛けの総仕上げとなります。ルツ記はダビデ王の先祖が誰であるのかを示す物語です。

「ベツレヘム」は「パンの家」という意味の地名です。飢饉がパンの家にさえも及ぶことに皮肉があります。「ユダ」は創世記のヤコブ・レア夫妻の四男ですが、実質的には「長男」です。アブラハム直系の一家族が、「モアブの野で」難民となるというのです。モアブはアブラハムの傍系ロトの子孫。イスラエル人はモアブ人を蔑視していました。覚悟の「寄留」です。JK