8/17今週の一言

我が家の犬の本名はコトレル=リック=カーソンと言います。ミドルネームを取って通称リックと呼んでいます。米国留学時代にお世話になった新約聖書学者の名前にあやかって命名しました。カーソン博士はアフリカ系男性、当時38歳。在韓米軍人や在米韓国人教会牧師などの経歴もあり、異彩を放った新任教授でした。17年前のちょうど今頃、新入生・新任教授歓迎パーティーで初めてお会いしたのでした。

カーソン教授の専門は使徒言行録です。「エチオピアの宦官のバプテスマ記事」(使徒言行録8章26-40節)についての研究で博士号を取得しています。非ユダヤ人で初めてバプテスマを受けた人物がアフリカの男性(しかも宦官)であることに、彼の聖書研究の視座がありました。聖書解釈・翻訳の歴史が、いかに西欧白人の支配的文化によって歪まされたかを力説していました。ラテン語・ギリシャ語はすらすらと辞書なしで読んで、そのまま翻訳できる語学の達人でした。

悠々自適の独身で突然我が家に自転車で訪れ、「カニが手に入ったから、日本酒を飲ませろ」と上がり込み、白人ばかりの教授会で苦労している愚痴話を一しきり。またある日はひときわ大きいノックの音で「リックおじさんが来たぞ」と言って、自慢のトラックの荷台に倅を乗せてくれるなど随分と遊んでもらいました。

心に残る名台詞も多く、今でも肝に銘じています。曰く「啓、お前の話は、西欧白人・男性・神学者にそっくりだ。もっと日本固有の神学を語れ。『白人教会』を日本に建てたいのか。確かに日本はアメリカの属国だがな」。教室では学生に向かって、「宿題を果たす際に注解書は読むな。天国に居る西欧白人・男性・神学者のことは気にするな。自分の世界観によって、ギリシャ語聖書本文を読み解釈しろ」。ある意味で高度な課題要求に神学生たちは鍛えられました。

いつも学内をヘッドホンでラップを聞きながらリズムを取って闊歩し、「ラップは現代の預言だ」と公言し、「次の大統領は黒人だ」と予言し(見事的中)、現代の人権・平和の問題をもギリシャ語本文から自在に語っていました。

 2001年9月11日、「米国同時多発テロ事件」後、国家主義に教会も加担し戦争に協力した時に、学内で最も醒めていたのはカーソン教授でした。イスラム教徒(さらには多くのアジア系住民)への排外的差別対応が米国内にありましたが、常にユーモアを持ちつつそのような自国を批判しました。わたしたち学生有志は、ブッシュ大統領へアフガン侵攻を思いとどまることを要請する手紙を書きました。ブッシュ政権支持率90%の中、学生の10%しか有志は与えられませんでしたが、カーソン教授は署名に連なってくれました。テロが拡散している今、彼を思い出します。 JK