皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
天皇が象徴として存在するということは、言い換えれば、「憲法は国民のうち特定の一人に対する差別待遇を認めている」ということでもあります。このことは、14条に定める「すべて国民は法の下に平等」ということと矛盾します。天皇も国民の一人であることは間違いないからです。
2条の「皇位の継承」は、この平等原則との矛盾を最も大きく広げる条文です。ポイントは「世襲」という考え方です。世襲とは、「次の天皇は現天皇の親戚でなくてはいけない」というルールのことです。このルールを実現するためには、「皇族」という身分を保証しなくてはいけません。天皇個人への差別待遇だけではなく、皇族という一種の貴族の血統を存続させることが2条の要請です。だから2条は、14条2項「貴族の制度・・・を認めない」に真っ向から対立します。
皇室典範という憲法の下にある法律は、14条の平等原則との矛盾をさらに広げています。たとえば、天皇になれるのは男性のみに限られているので(皇室典範1条)、「両性の平等」に違反します(憲法14条1項、24条2項)。皇室典範は、皇族の女性たちの地位を直接に貶め差別しています。また「子どもを産まない皇族の女性」が貶められる効果を持っているので、「個人の尊重」にも違反します(憲法13条)。
さらに皇室典範22条は、「天皇、皇太子、皇太孫の成年は、十八年とする」ので、民法4条の定める「年齢二十歳をもって、成年とする」と異なります。この三人の男性だけが大人になるのが早いという特権は、他の法律とも矛盾をきたしています。
皇室典範という「法律」を基にして定められた、法律よりも下位にある「政令」に「皇統譜令」というものがあります。「皇統譜」とは皇族の系図です。皇族の系図は皇統譜令によって義務付けられているので、皇族には戸籍法の適用がないと解釈されています。つまり天皇も皇族も戸籍をつくらなくて良いのです。それで名字が無い/名字を失うわけです。
戸籍制度そのものも大きな問題をはらんでいますが、一応国民全員に適用される法律です。戸籍をつくる義務から免れているのは皇族の特権の一つです。もちろん上位の法律の適用が除外される根拠が下位の政令というのも(しかも明文ではなく解釈)、法体系の点で問題です。
最上位にある憲法に反する法律や政令は廃するか、憲法に適合するように改正する必要があります。憲法内部の矛盾の場合は、前文が解釈のための物差しになります。2条「世襲」と、13条「個人の尊重」および14条「人間の平等」の矛盾対立、どちらを優先させるべきでしょうか。前文に明記されている基本的人権の尊重(「自由のもたらす恵沢を確保」)の根幹をなす「個人の尊重」「人間の平等」が優先されるべきです。それに対して前文には天皇への言及が無いのですから。