天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
天皇は公務員です。天皇だけに託された仕事である「国事行為」というものを行う公務員です。ですから99条において「天皇又は摂政・・・その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と、一緒くたにされているのです。法律の読み方として、このように何種類かが列挙され最後に「その他の○○」と書いてある場合は、最後の「○○」が直前まで列挙された種類すべてを含みます。99条の場合、公務員が天皇を含みます。
では公務員としての天皇の組織上の位置づけは憲法でどのように定められているのでしょうか。今回の3条に明記されているように、内閣の下にあると考えるのが素直です。天皇は一人では「国事行為」を行うことができません。すべて内閣の助言と承認を必要としますし、また天皇個人は「国事行為」の責任を負わないのです。最初から最後まで内閣が責任を負います。〔じゃあ、「国事行為」ってナンナノヨというツッコミは正しいものですが、7条で取り扱うので、ちょっと待ってください。予習は大歓迎。〕
天皇が内閣総理大臣を任命するとしても(6条。これは次々々会)、それはとても形式的なことで、天皇が内閣の上にあるということではありません。内閣総理大臣の任命は「国会の指名に基づいて」なされなくてはいけないからです。天皇が総理大臣その他の国務大臣の任免権を持っていないので、天皇は総理大臣よりも上に立つわけではありません。
「皇室会議」というものが前回紹介した皇室典範という法律に定められています。皇位継承順や、皇族の結婚や離脱などの際の議決機関です。皇室会議は十人で構成されます。内閣総理大臣および宮内庁長官(行政府より2名)・衆参議院議長および副議長(立法府より4名)・最高裁判所長官および他一名の最高裁判事(司法府より2名)・皇族(2名)という内訳です。この会議の議長は内閣総理大臣です(皇室典範28-29条)。皇室会議というものの代表者を見ても、天皇は内閣の下にあるという位置づけが妥当です。
「内閣の下にある天皇」は、明治憲法における「内閣の上にある天皇」というシステムへの反省から生まれています。明治憲法55条には、「国務大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス」とあります。「輔弼」という難しい言葉の意味は、「天皇に進言して、天皇の判断を仰ぎ、実務の責任を負う」というような意味です。明治憲法においては、行政上の判断を承認する主体が天皇でした。それに対して、日本国憲法は「天皇は国事行為しかできない」(4条。これは次回)とし、さらに「国事行為であっても、内閣の助言と承認がなければできない」と二重の絞込みをかけているのです。「天皇は責任を負わなくて良いよ。内閣が全責任を負うよ」というのは、わたしたちが「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」ていることの現われです(前文)。