天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
(以下略、次回以降へ)
7条は天皇の国事行為を列挙した条文です。前に説明したように、漢数字によって一号から十号まで挙げられています。今回から少しずつ取り上げます。
なお、この条文のように「具体内容を列挙」している場合、どのような意味で列挙されているかの解釈が問題になります。「列挙されている仕事しかできない」と限定的に考えるか、それとも、「列挙されている仕事は例示(たとえばの話)にすぎないので、それ以外の仕事もできる」と考えるかの違いです。天皇は国事行為しかできないのでしょうか。それともそれ以外の仕事もできるのでしょうか。
この件について、政府解釈は「公的行為」という言葉を創設して切り抜けるというものでした。つまり国事行為は列挙されていることだけが許されるけれども、国事行為に準じる行為として「天皇の公的行為」というものがあると考えるのです。たとえば、国会の開会式の天皇の「お言葉」も「公的行為だからOK」と解するわけです。これも一種の解釈改憲です。「公的行為」を任意に拡大できるからです。
いずれにせよ7条は3条を詳しく説明している条文ですから、列挙されている国事行為はすべて内閣の助言と承認により行われ、その責任については内閣が負うものです。「公的行為」を認める立場でも、内閣による縛りは「公的行為」にも及ぶと解します。
一号は、「公布」という国事行為についての定めです。公布は成立した法令などを国民や住民に知らせる行為です。天皇が直接に国民や住民に知らせることはせず、実際には行政官が『官報』に掲載することで公布とみなしています。明治憲法が改正され現行憲法が公布されたのは1946年11月3日のことでした。そして、施行されたのが1947年5月3日、ご存知「憲法記念日」です。
二号は、天皇が任意で国会を召集することができるかのようにも読めます。しかし、内閣の助言と承認がなければならないのですから、実質的には内閣が国会議員を集め国会を開催する権限を持っています。ちなみに「召」の字を使うのは天皇が主語の場合だけで、「集まるようにと命じる」という意味です。天皇以外の場合は「招集」という単語になります。ここにも明治憲法の影があります。「天皇ハ帝国議会ヲ召集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス」(明憲7条)。実務的には、天皇は「詔書」という書類を作成し、内閣の決定に従って、国会を「召集」しています。