知憲のススメ12 第7条【天皇の国事行為】その二

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事行為を行ふ。(中略)

 三 衆議院を解散すること。 (以下略、次回以降へ) 

7条、天皇の国事行為の続きです。前回取り上げませんでしたが、7条には3条に無い文言が加わっています。「国民のために」です。ここでは、「国民主権の名のもとに」と解します。「国民のために天皇がしてくれた行為なのだからありがたく受けるべき」のような論法で、「公的行為」が際限なく増えることを防ぐためです。天皇の政治利用を防ぐことや、天皇の政治的権限・宗教的ありがたみを剥ぐこと、「天皇主権から国民主権へ」が、日本国憲法全体の基調(明治憲法からの改正ポイント)なのです。

この視点は、3号の「衆院解散」を読み解く大前提です。この条文は天皇が衆議院の解散を命じることができるという意味ではありません。そうであれば明治憲法下と何も変わらなくなります。国民の代表である国会議員が過半数を占める内閣。その内閣の助言と承認により衆議院を解散することを、天皇の国事行為として認めているというように読むべきです。実質的な解散権限は内閣にあるのです。

内閣に解散権限ありとしても、さらに二つほど留意点があります。①解散の根拠になる条文は7条3号なのか69条なのかということと、②解散の権限は内閣にあるのか内閣総理大臣にあるのかということです。

①日本国憲法には衆議院の解散権限者が明文で規定されていません。それだから実際、憲法施行直後は、内閣不信任案が可決された場合や内閣信任案が否決された場合だけ衆議院の解散が起こるという解釈も存在しました。そこでGHQから解散を命じられた時に、内閣が衆議院に頼んで不信任案を可決させ、解散をしたことがありました(1948年。「馴れ合い解散」「69条解散」というあだ名付き)。現在は、7条3号を根拠にして内閣に解散する権限有りと解釈しているのです。根拠条文なしに「議院内閣制だから解散権限を内閣は当然に持つ」とする説もありますが、やはり重要なことは明文の根拠がほしいところです。

②さて内閣に解散権限有りとしても、それは内閣総理大臣のみに与えられた「首相の専権事項/伝家の宝刀」なのでしょうか。それとも合議体としての内閣の権限(閣議決定事項)なのでしょうか。慣例として閣議決定が全員一致を原則にしていることや、マスメディアが面白おかしく「解散政局」を首相個人の決断とのからみで報道するので、気になるところです。

「首相の専権事項」と解する理由は、首相が国務大臣の任免権を持っていることにあります(68条)。首相は解散に反対する閣僚を任意にクビにできます。「郵政解散」の際に小泉首相は、反対する島村農水省を罷免した後、解散を閣議決定しています(2005年)。ということは、他全員が反対しても全てクビにして、一人で閣議決定をすることすらできるのです。だから結果として首相の専権事項となると解するのです。まわりくどい解釈の上の解釈ですね。

天皇から政治的権限を奪うことに集中するあまり、どの役職/どの機関に政治的権限を与えるかを明記し忘れている感があります。