知憲のススメ13 第7条【天皇の国事行為】その三

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事行為を行ふ。(中略)

 四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。

 五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

 六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。

 七 栄典を授与すること。(以下略、次回以降へ) 

7条、天皇の国事行為の続きです。

四号は細かいところで齟齬をきたしています。「国会議員の総選挙」とあるからです。総選挙は衆議院にしかありえません。もし国会議員全体のことを指すならば、「選挙」とだけ記すべきです。

実は、参議院というものは帝国議会にかけられた最初の日本国憲法案には存在していませんでした。二院制ではなく一院制が原案だったのです。それが国会審議を経て参議院を設けるように修正されたのです。四号の文言は衆議院選挙だけを想定して書かれたのでしょう。二院制が規定された後も、四号の文言を整えるのを忘れたのでしょう。この不整合は、少なくとも参議院についての条文が「GHQからの押し付け」ではないことを示しています。

「公示」という言葉は一般には「公布」「公告」「告示」とほとんど同じ意味で用います。すべて「官報で知らせること」ぐらいの意味合いです。しかし、国政選挙に関しては公示という単語のみを使います。四号が正にその例です。

五号の「認証」については、6条の「任命」との比較の中で説明いたしました。ここも天皇が直接任命できずに、形式的・儀式的な認証しかできないというところに肝があります。実質的な任命は内閣の職務です(68条1項、80条1項)。なお、天皇の認証を必要とする行政官について、明記されている国務大臣・大使・公使以外で言えば、検事長・高等裁判所長官・副大臣らが挙げられます。この人々が、「その他の官吏」です。

六号は丸ごと73条七号と対応しています。そこでは、内閣の職務として「大赦、特赦・・・を決定すること」とあります。内閣が決定権限を持ち、天皇は形式的・儀式的に認証するしかないという仕組みは一貫しています。

七号の栄典の授与は、憲法上の大きな問題です。明治憲法15条「天皇ハ爵位勲章及其ノ他ノ栄典ヲ授与ス」の改正条文で、爵位と勲章が削除されているのが分かります。また、日本国憲法14条3項「栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない」との整合性を図らなくてはなりません。

明治憲法下では叙勲された人が終身年金を受け取ることができました(たとえば「勲等年金令」1877年)。それが14条3項で禁じられている「特権を伴う栄典の授与」です。ところが、1947年の日本国憲法施行後も、実質的には栄典を授与された人への年金支給が行われています。「文化功労者年金法」(1951年)は、文化功労者に対する年金支給を定めています。そして文化勲章受章者は文化功労者の中から選ばれているのです。このような抜け道は一種の解釈改憲です。

なお、栄典に関する法律はありません。自民党政府は何回も根拠法案を国会に上程しましたがいずれも審議未了の廃案となっています。閣議決定・政令改正の積み重ねによって現行制度ができあがっています。