2017/11/15今週の一言

聖書のいづみが休みだったので、『クリスチャン新聞(11/5号)』の拙稿「衆議院解散総選挙についての所感」を少し手直しして紹介します。

「公正」(ヘブライ語ミシュパート)が問われている。勝ち負け以前の問題として、土俵そのものの歪みが深刻だ。この選挙制度のもと、わたしたちは「正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」うるのか(憲法前文)。公正さを損なっている現行課題を瞥見する。

 a) 議員定数削減。代表数の減少は、主権者の影響力の減少だ。経費の問題ならば給与や手当を少なくすれば済む。人口比で言えば国際的に日本の議員は少ない。総定数600議席でも良い。

 b) 首相の専権事項としての解散。英独のように解散を法律で制約すべきだ。政治腐敗を隠すための解散は不公正の上に不公正を重ねている。

 c) 選挙運動期間の極端の短さ。解散を禁じれば多くの国のように選挙運動期間をなくしうる。衆院議員も四年間仕事を全うすべきだ。600億円の選挙費用は多額だ。

 d) 小選挙区制中心の選挙制度。仏国のような決選投票導入は不公正を若干緩和する。自民圧勝という現実は、しばしば言われる「有権者が忘れっぽいこと」や「批判の受け皿がないこと」が原因ではない。雨の中投票率は上昇し、各政党の得票率は受け皿と呼びうる水準だ。

 例えば今回の総得票を比例代表部分の得票率に基づいて単純に按分して議席を配分すると、次のような結果になる(小数点以下切捨。総選挙後の会派発足や移動は含まない)。

比例得票率 単純比例配分議席 実際の獲得議席 実際の議席占有率
自由民主党 33.2% 154議席 284議席 61.0%
立憲民主党 19.9% 92議席 55議席 11.8%
希望の党 17.4% 80議席 50議席 10.8%
公明党 12.5% 58議席 29議席 6.2%
日本共産党 7.9% 36議席 12議席 2.6%
日本維新の会 6.1% 28議席 11議席 2.4%
社会民主党 1.7% 7議席 2議席 0.4%
その他 1.4% 残り10議席 22議席 4.7%

第一党以外のすべての政党が割を食っていることが分かる。もし単純比例に基づく議席配分ならば多数派も少数派も納得する。数量的に公正だからだ。

 小選挙区制への賛成意見は、①緊張感のある二大政党制を生み出す、②政権の安定・決められる政治に集約される。しかし、①の目的は23年経っても一度も達成されていない。民主党中心の政権も自由民主党中心の政権も、連立政権だ。②についても、政権の安定が手放しに喜べるのか。むしろ政権の暴走・勝手に決める政治といった弊害を生んではいないか。北欧のように比例代表制のみで、中小政党分立・連立政権を常態としている国々でも内政上の大きな混乱は起こっていない。また比例代表制が男女比率の均衡に資するということも世界的に実証されている。

 議会は民主社会の多様な意見の縮図となるべきだ。保守二大政党制は、多様な民意を汲み取ることに向いておらず、似通った政策に両者が寄ってしまう。米国のトランプ政権は、汲み取られない有権者の不満を背景に生まれ、世界の平和を脅かしている。ポピュリズムと排外主義が世界を席巻している。勝ち負けがはっきりしている選挙制度は対立と分断構造に悪影響を及ぼす。

 草の根から新しい選挙制度を創ろう。力士には土俵を作れない。自分に都合の良い形にしたがるからだ。野党共闘が唯一の処方箋なのではない。それは立候補の自由を脅かし、有権者の選択肢・政策の幅を狭めるという副作用を伴う。多様な意見を代表する議員を国会に送る選挙制度。さまざまな鳥が巣を作りうる枝ぶりの良い木を、小さな種から育てていこう。 JK