4/11の聖書のいづみではサムエル記上6章1-5節を学びました。「ヤハウェの箱」(ヤハウェはイスラエルの神の固有名。新共同訳では「主」。箱はお神輿のようなもので、神がその上に座る/住むと考えられていた)が、ペリシテ人の三つの都市国家で疫病を引き起こした話の続きです。
ペリシテ人たちは、敵国イスラエルから奪った戦利品としてのヤハウェの箱を、七ヶ月も野外に放置していたようです。「地」の直訳は「野」です(1節)。屋内に安置すると、器物の破損ももたらすからでしょう(5章1-5節参照)。野に置いても疫病が止まない様子を見て、ペリシテ人の五人の領主たちは、ヤハウェの箱をイスラエルに送り返すことを決めました。しかし、ただ送り返すだけで良いのか判断に迷いました。さらなるたたりを恐れたのです。
そこで、領主たちだけの会合ではなく(5章8節参照)、有識者たちの意見を聴取することとしました。「祭司たちと占い師たち」(2節)は、古代世界における一級の知識人です。現代風に言えば、政府の諮問機関である、有識者による審議会のようなものでしょう。
有識者たちは、イスラエルの宗教的伝統に最大限の配慮を払うことを提言します。彼らは、イスラエルが行っている宗教儀式を行うようにと言います。それが「賠償の献げ物」(アシャム)を添えて箱を返却するという発案です(3節)。アシャムは、過失を犯した時の賠償として捧げられる供物です(レビ記5章14節以下参照)。こうして、彼らはヤハウェの箱を戦利品として所有したことを悔い改めました。イスラエルの感情を害したと認めたのです。
賠償の献げ物の具体内容について、彼らは自分たちの風習も考慮に入れます。当時の古代東地中海世界全般に、疫病などのお祓いのためには、その模型を造って神々にお供えするという風習がありました。そこで、腫れ物(下痢を原因とする痔か)と、その病原と目される鼠の模型を金で造ることが、有識者によって提案されます(4-5節)。さまざまに目配りの効いた有識者の提言に、ペリシテ五都市国家の領主たちは納得し、その通りに執行することとしました。
この箇所では、今まで「ヤハウェ」という神の名前を避けていたペリシテ人たちが自然に「ヤハウェ」という言葉を用いていることが目につきます(2節、異読によれば3・5節にも)。誠実な謝罪と賠償は、相手の大切にしている事柄を尊重する態度から始まります。そして、熟慮による判断が、諸方面に納得を調達します。「熟議民主政治」が求められるゆえんです。JK