2019/03/27今週の一言

17世紀初頭英国に誕生したバプテスト教会の特質は、何なのでしょうか。さまざまな答えがありうると思います。個人の信仰告白に基づいて全身浸礼を行うという特徴。あるいは個人の内心の自由を強調するということや、それと関係して国家と宗教の癒着を批判するという政治的主張も特徴的です。牧師も教会員の一人であるということや、牧師と教会員の間に身分上の差がないということ、あるいは各個教会の上に「教職者集団(監督という)」が存在しないという組織・制度の面での特徴もあります。

これらのバプテスト教会の特徴は、人類史における民主政治制度の発展に寄与しました。民主政治とは「治者と被治者の自同性」、つまり統治する者と統治される者が同じ人であるという政治体制のことです。煎じ詰めれば「自治(Autonomy)」です。発生当初からバプテスト教会は、国家から自由に、自らの意思で任意団体を結成し(自由教会という)、自分たちの中から牧師を任命し(兼職の牧師が多かった)、各教会が独立して自分たちの手で運営をするという自治を行っています。この伝統は、思想信条・内心の自由が人権の中心であるという考え方や、参政権は重要な人権の一つであるという考え方、国家権力をいかに制約させて分散させるかという考え方に影響を及ぼしました。そして各国の憲法条文に、人権尊重、主権在民、直接間接の参政権、国宗分離原則、三権分立、地方自治等が書き込まれていきます。バプテストは民主政の先駆者です。

民主政治制度についての探求は、政治学・行政学・憲法学の範囲です。神学の対象とは必ずしもなってこなかったように思えます。20世紀以降、「人権の神学」は盛んに論じられました。抑圧された者たちの視点で聖書を読み直す営みが、南米の貧しい人びと・北米のアフリカ系住民・韓国民衆・女性たち等々からなされています。今日人権の神学を無視して教会形成は不可能です。ただしかし、その人権を保障するための政治制度についての、聖書に基づく考察は、あまりなされていなかったのではないでしょうか。そもそも古代の本である聖書に、近代国家の政治制度について語る言葉があるのかという疑問もあるからです。

バプテストの自治重視が、聖書と民主政治制度を結びつける結節点となるかもしれません。4月5日、『キリスト者から見る<天皇の代替わり>』という本が発刊されます(いのちのことば社、1,400円+税)。「聖書・憲法・天皇制」という拙論も所収されています。上記のような問題意識のもと書いていますので、ご参考までに手にとって読んでいただけたら幸いです。JK