2020/06/24今週の一言

アブラハムとサラとロトは、どんな言葉を話していたのでしょうか。アブラハムの父親でありロトの祖父であるテラという人物は、元々カルデアのウルというところに住んでいました(創世記12章31節)。メソポタミア文明の最古の都市国家の一つです。そこではアッカド語が話されていました。アッカド語は南北で、バビロニア語とアッシリア語に分かれます。カルデアはバビロニアの別名です。テラの家はバビロニア語を第一言語として用いていたはずです。文字は楔形文字で、粘土板に専用の鉄筆で刻んでいきます。有名なハンムラピ法典の言語です。文字だけを見ると似てもにつかないのですが、バビロニア語はヘブライ語の親戚です。

 テラの家は、ウルから北西のハランに移住します。ハランはメソポタミア文明の北端シリア地方の都市国家です。そこではアラム語が用いられています。後に「世界帝国」(アッシリア、バビロニア、ペルシャ)の公用語となる言語です。アブラハムたちもバビロニア語とアラム語のバイリンガルになっていきます。アラム語もヘブライ語の親戚です。アブラハムの兄弟ナホルの一族はシリア地方にとどまったようです。ナホルの孫であり、ヤコブの舅となるラバンはアラム語話者でした(創世記31章47節の「エガル・サハドタ」という単語はアラム語)。

 テラの死後、アブラハムとサラとロトはハランから南下しカナン地方に移住します。「約束の地」です。そこはカナン諸語と呼ばれるいくつかの言語が用いられている地域です。モアブ語・アンモン語・エドム語、そしてヘブライ語です。一家は、ここでヘブライ語を習得していきます。三つ目の言語です。

 アラム語とカナン諸語の文字は、「原カナン文字」と呼ばれる象形文字のアルファベットです。この文字から一大発明であるフェニキア文字が生まれます。

セム語族と言います。元々は一つの言語だったものが(学者たちは「原セム語」と呼びます)、地域によって東・南・西(さらに北西・南西)に枝分かれしました。バビロニア語は東、アラム語は北西、ヘブライ語は南西のセム語です。三つも言語を習得できた理由は、それぞれの文法や文字が近い親戚言語だったからでしょう。

約束の地を一歩も出なかったイサクは、ヘブライ語しか話せなかったはずです。しかし妻リベカはアラム語を第一言語とし、おそらくヘブライ語も達者です。ヤコブと四人の妻はヘブライ語もアラム語も話せます。ヤコブの子どもたちはヘブライ語とエジプト語を使うようになります。エジプト語はセム語族には数えられません。文字は象形文字です。ヤコブは最晩年の十七年間をエジプトで過ごしながら、エジプト語の習得も試みたことでしょう。 JK