2021/09/15今週の一言

先週の土曜日の9月11日に、アマゾンで注文していた本が届きました。米国の恩師の一人コトレル・リック・カーソン教授の著作が、よりによって「9.11」の二十周年にあたる日に届くとは、何かの繋がりを感じてしまいました。

 以前も紹介したかもしれませんが、カーソン教授はアフリカ系米国人の黒人男性新約聖書学者です。専門は使徒言行録、特に8章の「エチオピアの宦官の物語」についての研究で博士論文を書いています。1999年8月に入学した、英語の不自由なわたしに真っ先に声をかけ、「まずは自分の博士論文を読んで、感想を聞かせてほしい」と教授。通常講義に上乗せされた「宿題」に毎晩ひいひい言いながら必死に読み応答したところ、「お前と話しているとドイツ人白人男性神学者と話しているみたいで面白くない。自分の世界観・文化背景に基づく『日本の神学』は無いのか」。頭をハンマーで殴られたような衝撃でした。以来3年間、教授は我が家にしげしげと立ち寄り、楽しくも刺激的な会話を常に提供してくれました。

 カーソン教授はギリシャ語・ラテン語の達人で、学生の前でギリシャ語聖書を音読しながらその場で自分の翻訳をつけていくというスタイルで講義をします。聖書原文と今ある世界、この二つだけで必要かつ十分。だから学生への課題提出の際も、「図書館にある注解書、参考書は読むな」というのです。「天国にいる白人男性神学者の言説は気にしなくて良い。支配的な文化に流されるな。自分の世界観と聖書だけを基にレポートを書くように」。

 2001年秋学期、わたしはカーソン教授の「コリントの信徒への手紙」の講義を受講していました。プレゼンテーションの番が回ってきて、愛国心旺盛な神学生たちの前でわたしは次のような趣旨を述べました。「今回のアフガニスタン侵略は良くない。アジア的に言えばそれは『土足で他人の家に入る行為』だ。この慣用句はアジアの文化に根差す。米国がアジア人の血を流すことはもう止めてほしい。アフガニスタン人の前ではアフガニスタン人のようになって、礼を尽くして対話すべきだ」。神学生たちからの轟轟たる批判渦巻く中、カーソン教授は「良い示唆だ」と一言。そして「狂信的なムスリムが自爆テロを敢行したという報道(「神話」)を鵜呑みにすべきではない。」とも付言してくれました。

9月11日に届いた本は、教授の博士論文を読みやすくしたものでした。JK