2021/09/22今週の一言

 列王記は、ソロモン王の治世を除いて、北イスラエル王国と南ユダ王国の歴史物語です。列王記に並行して歴代誌という歴史物語もあります。両者の関係は福音書が四つあることと似ています。福音書の場合は、マルコ福音書が先に書かれ、それを大いに参考にしてマタイ福音書・ルカ福音書が書かれました。ヨハネ福音書は、マルコ福音書を知りつつあまり参考にしないで書かれたと思われます。いずれにせよ、四つの福音書がイエスの生涯のうち最後の数年に焦点を合わせた、独特の伝記であることは共通しています。同じ時代の物語が並行して所収されているのです。イエスの復活後の続編があるものはルカ福音書だけです。

 列王記が先に書かれ、それを大いに参考にしながら歴代誌は書かれました。マルコとマタイの関係と同じです。列王記と歴代誌を比較することで、それぞれの強調点が浮き彫りにされます。

 列王記は南北両王国の歴史が、基本的には万遍無く記されています。ただし北王国は常に「悪役」です。悪役であっても記載されているだけましです。歴代誌には北王国の歴史は無視されています。脇役でさえないのです。歴代誌の姿勢は、「ユダ部族(ダビデ王朝)のみが正統なイスラエルである」というものです。列王記の姿勢は、「十二部族がそろってはじめてイスラエルと言える」というものです。この点で列王記の方が包含的です。また唯一無比の貴重な「北王国史」が載せられていることも大きな魅力です。

 歴代誌に比して、列王記には多くの預言者が登場し活躍します。そのほとんどは「自らの預言書を著していない預言者」です。いわゆる「行動の預言者」と呼ばれます。イザヤ書を著した預言者イザヤは、数少ない例外です(列王記下19章以下)。イザヤのような自著のある預言者のことを「記述預言者」と呼びます。

 列王記は預言者の視点で描かれた歴史書です。ナタン、アヒヤ、匿名の「神の人」・匿名の「老預言者」(王上13章)、エリヤ、エリシャ、匿名の「預言者」(王上20章)、ミカヤ、ヨナ、イザヤ、フルダなどの預言者たちが登場し、ある時は新しい王を擁立してクーデターを起こし、ある時は王を軍事外交顧問として助け、ある時は王の政策を面と向かって痛罵します。「神が真の王である」という信念と、その神に倣う自由な精神と行動が預言者の神髄です。JK