意外な事実ですが、讃美歌集である詩編は「嘆き」のうたが多く収められています。約半数です。特に前半に暗い歌が多いのです。イエス・キリストが十字架上で叫んだ言葉は詩編22編2節の引用です。「私の神よ、私の神よ、なぜ私を棄てたのか」。
ところで、上の聖句をヘブライ語では「エリ・エリ・ラマ・アザブタニ」と書きます。「エリ」が「私の神よ」、「ラマ」が「なぜ~か」、「アザブタニ」が「彼は私を棄てた」です。
マルコによる福音書15章34節には、同じイエスの言葉が「エロイ・エロイ・レマ・サバクタニ」だったと記されています。意味は同じですし、発音も似ていますが少し異なります。なぜでしょうか。
この質問は2001年に志村バプテスト教会のとある教会員から米国留学中の私に発せられたものでした。その時点で志村教会からの牧師招聘を受諾していたので、「先生が帰国し志村教会に赴任した折にはぜひヘブライ語を学び直したい」と、電子メールは結ばれていました。この方は一度東京バプテスト神学校でヘブライ語を学んだのだけれども、今一つ会得できなかったことを悔しがっていました。そして実際に志村教会で、この方を含め10名ほどの受講者によってヘブライ語教室が開かれ、共同で創世記1章から11章までを翻訳するまでになったのでした。
さて詩編22編とマルコ15章の違いは、ヘブライ語とアラム語の違いに由来します。両者はセム語族に属する親戚言語です。だから似ているのです。そしてイエスの時代の日常語はアラム語でした。だから断末魔の叫びにおいてアラム語が発せられたのでしょう。受難節の一日、最後まで聖書本文に対して自由な態度をとった(翻訳/解釈を可とする態度)主イエスのことを思い起こします。 JK