使徒言行録の講解説教も15章まで進みました。いくつかの角度をもってゆっくり読み解いてきたので、この際に少し振り返ってみたいと思います。
一つは、キリスト教会の発生と最初期の教会の歩みを再構成するという角度です。使徒言行録は初代教会の歴史を同時代に記した唯一の書であり、新約聖書に収められた唯一の「教会史」です。福音書が四つ収められていることに比べるとその不均衡は明らかです。貴重な第一次資料なのにもかかわらず、史実を再構成する際パウロの記した手紙の方が重視され続けています。改めて使徒言行録を史実再現の文書として最大限評価しながら読み進めることを心がけています。
二つ目に、新約聖書がどのようにして形成されたのかを再構成するという角度です。紀元後40年代後半に書かれたパウロの手紙が新約聖書における最古の文書です。おそらく50年代にマルコはパウロに対抗する意図をもって、福音書を創作しました。そのマルコ福音書を下敷きにしながらも、それを批判するという意図でルカは、自分の福音書を著しています。パウロ、マルコ、ルカの織りなす人間模様と、その結果としての新約聖書の発生と成長が、ルカの著した使徒言行録から垣間見えます。新約聖書を必要としなかった「最初の20年(紀元後30-50年)」の教会の礼拝はどのようなものだったのでしょうか。古代のロマンです。
三つ目は、現代の課題を積極的に持ち込むという角度です。たとえば多様性の承認、他者への寛容という考え方は、当然古代社会では未発達です。人権思想が確立していないからです。しかし、説教ではあえて現代の倫理を、初代教会の歩みにぶつけています。著者ルカはギリシャ人でした。ルカがユダヤ民族主義に対して持っていた批判がきちんと表される聖書解釈がなされるべきでしょう。そこに人権思想の萌芽があるからです。自らの存在が脅かされながら現代を生きているわたしたちに資する教えが、この作業から引き出されます。JK