今回は旧約聖書の人物アブラム/アブラハムです。名前の意味は、両方とも「父(=神)は気高い方/至高の父」です。
アブラハムは75歳で「父の家」を棄て、メソポタミアを出てパレスチナを通過しエジプトに行きます(12章)。その後ロト夫妻と別れてパレスチナ南部ヘブロンに住みます(13章)。彼の神は軍事用語の「盾」と称され(15章1節)、彼は郎党を私兵にもできます(同14章)。多分豪商です。
アブラハムには3人の妻がいます。エジプト人ハガルとの間に長男イシュマエル(16章。86歳の時の子)、ウル人/ハラン人サラとの間に次男イサク(18・21章。100歳の時の子)、カナン人ケトラの間にジムラン、ヨクシャン、メダン、ミディアン、イシュバク、シュアの6人の息子をもうけています(25章。137歳以降の子ら)。嫡出直系男性重視の家父長制や、一夫多妻制の課題が伺えます。「父なる神」という概念が抱える課題と重なります。
彼は「神の友」と呼ばれるほどに、直接神と対話できた人物です(18・22章)。神は一方的にアブラハムを偏愛し、3度も契約を交わして土地授与と子孫繁栄を約します(12・15・17章)。契約のしるしは割礼(17章11節)、ここにも男性優位が見えます。他方アブラハムは神に対して信実であったり不信実であったりします(15章6節、17章17節、22章12節)。また、妻サラを二度も裏切り(12・20章)、妻ハガルを二度も追放する不誠実な夫です(16・21章)。「信仰の父」は欠けの多い人物です。サラのための墓地購入はせめてもの償いでしょう(23章。137歳の時)。
アブラハムはイサクの妻を見出しイサクに全財産を譲った後175歳で死に、サラの墓に埋葬されます(24-25章)。アブラハムが残した負の財産(家父長制、選民思想、「約束の地」概念等)を批判しながらも、良質の遺産だけを部分的に限定相続できないものかと願います。JK