今回はサライ/サラです。名前の意味は、サライが「私の君主」、サラが「君主」です。10歳年上のアブラハムと結婚したメソポタミア地方ウル出身の女性です。義理の父テラに導かれウルからハランに移住します。
サラには子どもがいません。それがアブラハムの「父の家」(創世記12章1節)を出る原因の一つだったと思います。「男子を生まない女性は神に呪われている」という観念が当時ありました。家父長制と舅が彼女を苦しめます。65歳の時にサラは、ハランにある「義父テラの家」を出ます。
苦慮の末サラは自分の支配下にあるエジプト人女性ハガルを使って、後継ぎの男子イシュマエルを得ます(76歳の時)。その結果生じたハガルとの葛藤は一夫多妻制の課題をあぶり出します。女性にとって過酷な社会構造の中で、サラは力を尽くして自身の名誉のために生きようとします。彼女は後の日々のために笑う女性です(箴言31章25節)。驚くべきことに神は、「ハガルと長子イシュマエルを追放せよ」というサラの冷厳な主張を支持します(創世記21章12節)。
夫アブラハムは保身のために嘘までついて、サラを二度別の男性君主に差し出します(12章・20章)。しかも二度目の際にサラは妊娠していた可能性すらあります。夫への不信感に苦悩するサラに神は笑いを与えます(18章12節・21章6節)。息子イサクを出産することは、90歳のサラの名誉を回復させました。
夫アブラハムは神からの「不当な命令」(それを「試練」と呼んだとしても)に従い、愛息イサクを殺そうとします(22章)。夫の決断に対して、サラは大反対したのではないでしょうか。ユダヤ教の伝説によれば、「イサク奉献事件」のショックによってサラは死んだと言われます(23章)。サラの127年の生涯は、「男性たち(神も含む)の談合によって勝手に人生を決められることへの拒絶」という、現代女性たちの当然とるべき態度を後押ししています。JK