今回はサウル、イスラエルの初代王です。
サウルはベニヤミン部族出身者です。ヤコブ物語においても始祖ベニヤミンは末っ子ですが、サウルの当時もベニヤミン部族は最小の部族でした(サム上9章21節。士師記19-21章参照)。聖書の神は小さい者を選ぶ神です。一方、サウルは外貌を評価されてもいます。彼は美しく背が高かったそうです(サム上9章2節)。
サウルは預言者サムエルから油を注がれ王となり、首都をベニヤミンのギルガルに据えます(同11章14節)。しかし十二部族すべてが彼を王として認めるために一年が必要だったようです(同13章1節)。十二部族は「統一イスラエル軍の最高司令官としての王」の擁立に徐々に賛同していったのです。周囲の国々、特にペリシテ五都市国家同盟からの独立を果たしてくれるならば、徴兵制導入もやむなしということなのでしょう(同8章11節以降)。そのためサウルは死ぬまでペリシテ軍との激しい戦闘を続けます(同14章47-52節)。
ペリシテとの戦闘は容易ではありません。というのもペリシテ軍兵士が皆鉄製兵器を持っている一方で、イスラエル軍は武器の所持を禁じられており、せいぜい青銅製の農具しか持っていなかったからです(同13章19-22節)。サウル王は常に優秀な軍人を募集していました。こうしてサウルは野心家ダビデという軍事の天才を抜擢しました(同17章)。ダビデは軍功を重ね王になる野望を膨らませます。
サウルの行動はサムエルに二度叱責されています。サウルを弁護するならば、どちらも創設されたばかりのイスラエル軍への配慮から出た行動です(同13章8節以下、15章)。サウルは勝ち続け戦利品を兵士に配り続けなくては王でいられないという緊張と戦っていたのです。さらに家臣ダビデの野心もサウルを悩ませます。結局ダビデがペリシテに寝返り(同27章)、最強の将軍を失ったサウルは、ペリシテ軍との戦闘に敗れ自死に追い込まれます(同31章)。悲劇の初代王です。JK