2024/06/05今週の一言

今回はイサク、サラの一人息子です。名前の意味は「彼は笑う/遊ぶ」です。

 創世記に残されているイサクの足跡は、彼の父アブラハムや彼の次男ヤコブに比べて、極めて少ないものです。イサクは両親や妻リベカ、双子の息子たちの脇役に位置づけられがちであり(17章15-19節、18章1-15節、21章1-10節、22章、24章、25章19-34節、27章)、純粋にイサク自身が主役の物語は26章だけです。

 26章には二つの逸話があります。一つはイサクが保身のためペリシテ人に対して妻リベカを「自分の妹である」と偽って紹介する話(7-13節)、もう一つはイサクが暴力的争いを避けてペリシテ人と講和条約を締結した話です(14-33節)。一連の物語は「紛争の原因・停止・再発予防」についての示唆を与えています。

 イサクは仮想敵ペリシテ人を想定し、彼らは自分の妻を奪い自分を殺す相手とみなしました。この失礼な思い込みが争いの種です。実はペリシテ人の王アビメレクはもっと寛大で公正な人物でした。もっともペリシテ人はイサクの繁栄を羨み、この嫉妬が次の葛藤の温床となります。ペリシテ人はアブラハムが掘りイサクが相続した井戸をことごとく埋めます。嫉妬もまた争いの原因です。

 イサクは井戸の所有権を主張することをせずペリシテ人に追い出されるたびに新しい井戸を掘ります。イサクは「井削(いさく)」です。このことが三回繰り返された後に争いと敵意は止み、双方が暮らせる広い場所が創出されます。

 その後アビメレク王らがイサクの自宅を訪ねて、「今後は相互に危害を加えない」という趣旨の不可侵条約締結を提案します。ペリシテ人権力者たちはイサクの柔和な態度にほだされたのでした。両者は同じ食卓を囲んで誓約を交わしました。自分の心を開くこと、相手を羨まないこと、どちらか一方でも争いを避けること、共に食べること、双方が適切な距離を保つこと。イサクは笑いながら平和をつくります。柔和な人は幸いです。騙すよりも騙される方が幸いです。JK