今回はフェベという女性。ケンクレアイの教会の執事です(ローマの信徒への手紙16章1-2節)。
コリント地峡にある大都市コリントは、東側(エーゲ海)にケンクレアイという港、西側(アドリア海)にレカイオンという港を有していました。コリント教会は、それぞれの港町に住む信徒たちによって構成されていたようです。毎週の礼拝は指導者たちの自宅で行い、時々合同の礼拝を捧げていたと推測されています。フェベはケンクレアイで自宅を礼拝場所として提供していた一人です。
教会指導者を意味するディアコノスというギリシャ語を、口語訳は「執事」と訳し、新共同訳聖書は「奉仕者」と訳しています。紀元後50年代半ば当時のディアコノスが、現在のバプテスト教会の「執事(英語のDeacon)」と全く同義ではありえないでしょう。とはいえ何らかの役職名である可能性が高いので、ここは「執事」または「助祭」と訳しておいた方が良いと考えます。
パウロと争うコリント教会の中で執事フェベは板挟みになりながら、エフェソ教会でパウロに合流していたと思います。旧知のアキラ・プリスキラ夫妻の導くローマ教会がフェベを招聘したタイミングなのか、それとも「伝道旅行」でフェベがローマを立ち寄るタイミングなのか、パウロはローマ教会宛ての手紙をローマに赴く彼女に託します。手紙の運び手への「推薦状」という意味合いでパウロは16章の冒頭に彼女をローマ教会に対して紹介しているのでしょう。
自分の手紙を託すほどにパウロはフェベを信頼しています。パウロは彼女を自身のプロスタティス(保護者:田川建三訳、援助者:新共同訳)と呼びます。この名詞は「先に立つ」「導く」という動詞の派生語です。「フェベが主、パウロが従」という含意があります。ケンクレアイでパウロの頭を剃って、次の行動の後押しをしたのはフェベだったのかもしれません(使徒言行録18章18節)。JK