今回はヤコブという男性。ヤコブはイサクとリベカ夫妻の間に、双子の兄エサウと共に生まれました(創世記25章)。彼は、「諸々の天幕(に)座っている、完璧な男性」(25章27節。私訳)でした。何でもできる、一族郎党の管理者です。
ヤコブは家父長制に対する挑戦者です。兄エサウの地位「長子」をレンズ豆の料理と交換させます(25章)。また母リベカの協力のもと父イサクを騙して、兄エサウに対する「家長からの祝福」を奪います(27章)。長男に成り上がったヤコブは、兄エサウの報復を避け、母の兄ラバンのもとに逃げます(28章)。父の家の継承者となったとたんに父の家を離れることは大いなる矛盾です。
アラム人ラバンはヤコブに輪をかけた策士でした。彼は言葉巧みに自分の二人の娘をヤコブと結婚させるように仕向け、婿ヤコブを自分のもとに20年も不当に留め置いて働せたのでした。ヤコブは四人の妻と十三人以上の息子娘を引き連れて義父の家から逃げます。帰郷の旅の途上でヤコブは足の不自由な人となります(32章)。「できる男」から「できないことを知る人」に変わる潮目です。
寛容な兄エサウによって「約束の地」に住むことが許されたヤコブは、老父イサクの介護を担います。「長男」だからです。シケムという町からも不本意ながら逃げる破目となりました(34章)。最愛の妻ラケルを亡くします(35章)。息子たちを掌の中に治めきれず、ラケルの息子ヨセフをも手元から失います(37章)。家長絶対の家父長制がヤコブの家ではゆるがせにされています。
飢饉が起こった時、ヤコブはエジプトの宰相となったヨセフを頼り、約束の地から逃げます(46章)。エジプトにおける死の直前、型を破ってヤコブは「家長からの祝福」をヨセフの二人の息子と、娘ディナ以外の十二人の息子たちに分配しました(48-49章)。抑圧的仕組みを破る努力をしながらも、大枠では家父長制も一夫多妻制も崩せなかった人。ヤコブの旅人人生です。JK