2025/05/07今週の一言

今回はエリという男性です(サムエル記上1-4章)。

エリはエフライム部族のシロという町に住んでいました。シロには「ヤハウェの家」(「神殿」とも訳されます)があり「ヤハウェの箱」が神殿に安置されていました(4章4節)。箱を目当てに毎年巡礼が行われていたのですから、神殿を中心に栄えていた町だったのでしょう(士師記21章19節)。シロには、女性たちの誘拐・略奪婚という悲劇も語り伝えられていました。部族間戦争の不当なしわ寄せです。

エリの家系は代々シロの統治者かつ神殿祭司長の役割を務めていたようです(4章18節)。五十八歳でその地位を継いだ士師エリは、とある年の巡礼に来た一人の女性に目を留め相談に乗ります。ハンナという女性の苦悩に対するエリの応え。「貴女は平和に歩め。神はあなたの求めを与える。それは貴女が彼と共なるところから尋ねたものなのだが」(1章17節私訳)。知性と品性を感じさせる言葉です。

エリに二人の息子がいます。ホフニとピネハスです。父と異なり、二人は自らの権力を濫用して私腹を肥やしていました。年老いたエリは息子たちを戒めます。「もし各人が各人に罪を犯すなら神が仲裁する。しかしもし各人がヤハウェに罪を犯すなら、誰が彼のために仲裁するか」(2章25節私訳)。けだし名言。その後、二人の息子が殺されることを預言された際には、エリは何も言葉を発しません。

エリはハンナの息子サムエルを自分の徒弟として引き受けました。預言者となったサムエルは、恩師エリの家の没落を預言します。エリは二度目となる裁きの預言を神の言葉として素直に受け入れます。「彼はヤハウェ。彼は彼の目に良いことを行う」(3章18節私訳)。味のある言葉の陰に心中去来するものは如何に。

ヤハウェの箱を担ぎ出した戦闘において、箱がペリシテ軍に奪われたことを聞いた衝撃で、九十八歳のエリは椅子から転げ落ちて首の骨を折って死にました。二人の息子の戦死よりも、箱の行く末を案じたままの事故死です。JK