2025/05/14今週の一言

今回はゴメル(完成するの意)という女性。エフライム部族出身で北王国の首都サマリアに住む紀元前8世紀の人物です(ホセア書1・3章)。彼女の父親はディブライム(二つの焼き菓子の意)といいますが、名前以外は知られていません。
ゴメルは「神殿聖娼」という仕事に就いていたと推測されます。いや、本人の意思とは関係なく、家庭内の事情により身売りを余儀なくされていたのかもしれません。神殿聖娼とは、バアル宗教における儀式の一環として祭司と性交渉をさせられる人々のことです。それは、強壮な牛に譬えられるバアル神に五穀豊穣を祈願する儀式にとって、必要な行為でした。しかしヤハウェの信徒にとっては、儀式的性行為は信仰的意味でも人倫的な意味でも「不倫」です。
預言者ホセアとゴメルの結婚は1章と3章に描かれています。二つの出来事を同じ出来事ととるならば、先に3章の「ホセアによるゴメルの買い取り」があり、次に1章の「ゴメルの三人の子どもたちの出産と命名」があったと考えられます。ホセア書は、贖い主(奴隷を自由人へと買い戻すという救い主)の神と、男性預言者ホセアを重ね合わせています。
ゴメル自身から見るとどうなのでしょうか。聖書はゴメルに語らせていませんから真意は掴めません。夫ホセアは彼女の職業を奪い、家父長制の中に閉じ込めたとも言えます。そして息子・娘・息子を彼女に生ませ、夫はそれぞれに不吉な命名をします。北王国王家滅亡の地を預言して長男に「イズレエル」という地名を人名として与え、神の裁きを預言して長女に「ロ・ルハマ(憐れまぬ者)」、次男に「ロ・アンミ(我が民ではない)」という名づけをしています。のどかな名前を持つ父親から、肯定的な名前を授けられたゴメルには信じがたい命名です。
ゴメルが求めていたゴメル自身の幸せや、救いの完成とは何だったのでしょうか。His-storyを、Her-storyに再構築する必要があります。JK