2025/07/02今週の一言

今回はティルスという町に住む、ギリシャ語話者のシリアフェニキア人女性。マルコ福音書7章24-30節(マタイ並行個所も)にのみ登場する人物です。

ティルス(厳密には「テュロス」。ヘブル語「ツォル」)は、カファルナウムから北西50kmほどの海岸沿いの港湾都市です。新約聖書の時代には住民はフェニキア語(ヘブル語の親戚言語)ではなくギリシャ語を用いていました。

その町に「汚れた霊に取りつかれた幼い娘を持つ」女性がいました。この人が地元住民か、それともギリシャから渡来した人物かは不明です。彼女はイエスが悪霊祓いを行う奇跡行者であることを噂で知っていました(1章39節、5章20節等)。そのナザレのイエスが、とある人物の家に滞在しているという情報を、彼女は聞きつけ、その家を訪れます。ずかずかと入り込み、ギリシャ語でイエスに直談判をするのです。「あなたが娘からその悪霊を追い出すべきだ」。

ギリシャ語におけるイエスの回答は次の通り。「まずその子どもたち(テクノン)が満たされることをあなたはそのままにせよ。というのもその子どもたちのパンを取ること、またその子犬たちに投げることは良くないからだ」(27節)。

すると女性はギリシャ語単語を変えて切り返します。「主よ、食卓の下の子犬たちも、愛する子ども/僕たち(パイス)のパン屑から食べています」(28節)。女性にとって「そのままにできない」現状があります。ユダヤ人成人男性だけが神の子/僕なのか、神はすべての人間を愛する子としているのではないか。実際神は、今も世界において、子犬と同時に僕たちを養い用いているのではないか。

気圧されたイエスは、「この理(ロゴス)のゆえにあなたは行け」と応えます。貶められている人間が尊重され、神に仕えるべきだという理は、福音です。ティルスに教会が存在したことは使徒言行録に証言されています(8章40節、21章1-6節)。あの母娘がティルス教会の創立者ではなかったかと推測します。JK