今回はシモン・ペトロ(ケファ)の妻です。この女性の名前も知られていません。彼女はただ一度だけ、パウロの書いた手紙に言及されています(Ⅰコリ9:5)。彼の書きぶりから、ケファの妻はキリスト信徒であったことが分かります。
彼女はガリラヤ地方のカファルナウムという町の住民で、ある時期から母親とのみ暮らしていました。事情は分かりません。女性二人の生活は苦しかったと思います。その町にベトサイダ(「漁師の家」の意)からシモンとアンデレという兄弟の漁師が移住してきました(ヨハ1:44)。二人は網元ゼベダイのもとで働き始めます。ほどなく、シモンと彼女は結婚します。そしてシモンの弟アンデレも含めて、四人で一つの家を形成し、協力して家計を支えるのです。
母親が高熱を出した時、夫も義弟も漁に出ていて不在でした。彼女は必死に看病します。すると、どやどやと五人の男性が自宅に上がり込んできます。網元の御曹司たちと見知らぬ男性。ナザレのイエスです。聞けば悪霊祓いができる奇跡行者とか(マコ1:28-31)。彼女も夫も義弟もイエスに母の癒しを乞い、イエスは快諾し母の熱を冷ましました。母はその場でイエスの弟子となります。
彼女は、夫・義弟・ゼベダイの息子たちがイエスの弟子となった次第を、聞きました。義弟アンデレが、大事な漁を休んでユダヤ地方の荒野に行き浸礼者ヨハネの弟子になるほどに、宗教心の篤い敬虔な人物であることを彼女は知悉しています(ヨハ1:40)。アンデレと同じくヨハネに浸されたイエスが、この度ヨハネの浸礼運動と異なる新しい宗教運動を創始するとのこと。神の国運動・食卓運動です。そのためには拠点となる家が必要でした。彼女はイエスの弟子となり、ガリラヤ中を経巡る「放浪の急進主義者(イエス一行)」を定住者として支援します。イエスの十字架と復活の後、カファルナウムに教会が彼女の自宅で創設されます。ペトロやアンデレにとっては、真にくつろげる「港」のような教会です。JK