今回は、シフラとプアという二人の女性、エジプトに住んでいた助産師たちです(出エジプト記1章15-21節)。彼女たちがヘブライ人だったのか、それともエジプト人だったのか、本文上は曖昧です。
ある日、彼女たちは絶対的権力者であるエジプト王から告げられます。「ヘブライ人のお産に際しては、息子〔ベン〕であれば死なせ、娘〔バト〕であれば生きるようにせよ」。恐ろしい命令です。彼女たちは生命の創り主である神/神々(単複どちらにも訳しえる。複数ならばエジプトの神々)を畏れ、王の命令どおりに実行しません。彼女たちは、性別にかかわらず「その子どもたち〔イェレド〕を生かした」(17節)のです。エジプト王が持っている「息子/娘」という尺度で赤ん坊を区分するのではなく、二人は別単語「子どもたち」を用いて全ての赤ん坊を包含します。ちなみに助産師〔メヤッレデト〕という言葉も、イェレドという言葉と同根です。職業人として、彼女たちは人間を男女で分けて考えないのでしょう。公正です。
エジプト王は彼女たちを詰問します。「なぜ俺様の出した命令に背くのか」。助産師たちの返答が傑作です。「なぜならヘブライ人女性たちは、助産師たちが来る前に生んでしまうから」。彼女たちは王権をあまり恐れていないようです。21節にも繰り返されているように、助産師たちは神ないしは神々を畏れています。エジプト人助産師がヘブライ人の神を畏れた可能性もあります。
そして神/神々はその助産師たちに良くした。そしてその民は増えた。そして彼らは非常に強くなった。そしてその助産師たちがその神/神々を畏れるということが起こった。そして彼は彼らのために家々を作った(20-21節私訳)。「彼」「彼ら」が誰であるのかの解釈は読者に委ねられています。神がイスラエルの諸家族を創出したのか、それとも、エジプト王が神々のために神殿を建てたのかもしれません。助産師たちが子どもを生んだと本文には書いてありません。 JK