2025/11/26今週の一言

今回はヘロデ・アルケラオス(新共同訳「アルケラオ」、口語訳「アケラオ」)という男性。クリスマス物語に登場するヘロデ大王の息子です(マタイ福音書2章22節)。

ヘロデ大王の死は紀元前4年、その際に領土は三分割されます。大王の遺書が複数あり、誰が王位を継承すべきかに争いが生じていたため、ローマ皇帝アウグストゥスの裁定によって三人の息子たちに割譲されたのです。最も重要な地域であるユダヤ地方(エルサレム含む)・イドマヤ地方・サマリア地方が、アルケラオスの領土となりました。ちなみに彼の母親はサマリア人マルタケという女性です。

ローマ皇帝アウグストゥスは、「王(basileus)」という称号ではなく「民族領主(ethnarch)」という称号を、アルケラオスに与えます。他の二人にも「四分封領主(tetrarch)」という特別な称号を与え、ヘロデ大王の王位は誰にも継承されません。つまり「ユダヤ人の王」は前4年から空位となったのです。

ヨセフ・マリア夫妻は、エルサレムに住むアルケラオスが大王の残虐性を継承していることを恐れて、ガリラヤ地方に移住しました(マタイ2章22節)。ユダヤ人歴史家ヨセフスによれば、アルケラオスはエルサレム神殿で3000人の民衆を虐殺しています。重税や圧政に対する蜂起が、とある過越祭で起こった時に、彼は武力で鎮圧したのでした。特にファリサイ派と彼は対立しました。ローマ人歴史家タキトゥスも、「暴政と無能によって民から訴えられたアルケラオスを、皇帝はガリア地方に追放した(紀元後6年)」と伝えます。こうしてユダヤ地方は、カイサリアに常駐するローマ帝国の総督が直接統治することとなりました。

アルケラオスの10年にわたる統治と失脚は、福音書の時代背景・当時の読者の常識です。「ガリラヤには領主ヘロデ、ユダヤにはローマ総督」「ユダヤ人の持つ純血主義や武人メシア待望」「ファリサイ派の政治力」「過越祭におけるローマ総督ピラトの言動」などなど、いろいろなことに合点がいきます。JK