3/1今週の一言

3/1の「聖書のいづみ」では出エジプト記34章17節を学びました。「祭儀的十戒」の第二戒です。20章4節の「倫理的十戒」の第二戒と並べると、その異同がよく分かります。

あなたはあなたのために鋳像の神々を造らないだろう。34章17節

あなたはあなたのために像を造らないだろう。20章4節 ※以上私訳。

両者の違いは、「鋳像の神々」と「像」という単語だけです。その他の部分はすべて同じなのです。では、両者の違いがどこにあるのか、また、なぜそのような違いが生まれているのかについて考えてみましょう。

「像」(ヘブライ語ペセル)の原意は「彫像」です。石や木を彫刻して作成した像のことを指しました。しかし、そこから発展して石像・木像だけではなく、神像一般をも広く指すようになりました。ペセルは、いわゆる「偶像」のために用いられる最も頻度の高い普通名詞です。

狭い意味の「彫像」である時、この禁令には抜け道ができます。つまり、「彫像を造ることは禁止されているが、彫像ではない鋳像の神像を造ることは許される」という反対解釈です。アロンを始めとするシナイ山の麓でモーセに叛旗を翻した民は、「金の子牛」という「鋳像の神々」をこしらえました。そして、「イスラエルよ、これこそあなたをエジプトの国から導き上ったあなたの神々だ」と叫んだのでした(32章4節)。その結果、指導者層を含めて民の内部に深刻な対立が起こり、一旦締結されたシナイ契約も破棄され、神と民との間にも厳しい葛藤が生じたのでした。

祭儀的十戒の第二戒は、この抜け道を塞ぐ新たな法整備です。シナイ契約の再締結を実効性のあるものにしなくてはいけません。金の子牛事件を想定し、金の子牛事件の再来を防ぐために、「像(ペセル)」ではなく、「鋳像(マッセカー)」という単語が用いられています。つまり、倫理的十戒で包括的な神像一般を禁じ、祭儀的十戒で特に「鋳像の神々」を禁じるという二段構えにしたのです。特別法は一般法よりも優先され、後法は先法よりも優先されるものです。なお、マッセカーという単語は金や銀を鋳る時にしか用いられませんし、宗教用語として用いるのはセム語族の中でも珍しい用例です。この点も、金の子牛事件に絞った戒めであることを補強しています。

法律は必要性があって作られるものです。安全保障法制や共謀罪、さらに遡れば国旗国歌法、PKO協力法、元号法に必要性があったのでしょうか。 JK