聖書のいづみが春休みに入ったので、今週はJEDPのお話。
聖書の物語を読む際に「宗教思想史」「文書化の順序」に着目することは独特の意味を持ちます。前13世紀のモーセは「預言者的創唱宗教」を打ち立てた人物と言われます。それは、唯一神と面と向かい神からの啓示を直接霊的に受けて、神の言葉を人々に預言するというかたちの宗教です。フェニキア文字が発明される前10世紀まで文書化はありえません。言葉よりも霊が重要です。
前9世紀北王国の預言者エリヤがモーセの思想を受け継ぎます。ヤハウェの霊を受けて彼は国家宗教と対峙します。「ヤハウェのみ運動」と呼ばれます。彼も記録文書は残しませんでしたが、民衆の記憶に残る人物となりました。
前8世紀の四人の預言者たちが初めて文書によって神の霊感を記述しました。彼らの共通の主張は、「ヤハウェを愛せ・隣人を愛せ、さもなければ国は滅びる」というものです。そして北王国が預言通り滅びます。前721年。
前7世紀、「申命記的歴史書」を作る運動が起こります。これはモーセの権威によって南王国を再生させる運動です。「預言者の主張を具現化するために申命記律法を行え、そうすれば南王国は滅びない」という主張です。この運動の担い手を便宜的にD集団と呼びます。ところが前609年、運動の旗手であるヨシヤ王が戦死します。この挫折の結果、法律や王国史の文書化による復興運動に対する批判が生まれます。それらがE集団やJ集団の問題意識です。だからこの人々は族長とモーセの物語を書こうとします。Eは預言者たちの思想を汲んで、Jはヨブ記の著者とも似た独自の思想を展開させつつ「民と共なる神」を描きます。
前6世紀バビロン捕囚・南王国の滅亡(前587年)。決定的破局を受けて預言者エレミヤとエゼキエルが希望を語りだします。エゼキエルは捕囚の地で、「ヤハウェの栄光が帰還する」という希望を語り、エレミヤはエルサレムで「新しい契約の成立」を謳いました。祭司出身のエゼキエルの教えはP集団に引き継がれ、モーセ五書を作ろうという運動に結実します。Dは申命記を捧げ、E・J・Pは書き込み、さらにDが応答し、最終的にPがまとめあげ、五書が完成しました。
こうして、正典である五書を礼拝で用いながら「バビロンからの帰還を希望する信仰共同体イスラエル」が再生します。「正典宗教」の誕生です。JK