「教育ニ関スル勅語」(以下「教育勅語」)の教育現場使用を政府が容認しました。 私立の幼稚園で用いる場合と、公立の学校で用いる場合では若干異なりますが、基本的には同じ問題性を抱えています。それは、戦前と戦後の大転換を自分の事柄にしたくない人々が、実は日本社会の多数であるという問題です。「自分の事柄にしたくない」の中には、戦後レジームを積極的に否定しさる立場や(現政権の大多数)、事柄への無関心を含め消極的に受容する立場も含まれます。
教育勅語の問題はそれがどのように国家に利用されたかという点にあります。天皇主権を謳う大日本帝国憲法に基づく「国体」、現人神である天皇を頂点とする「国家神道」、天皇の軍隊である「皇軍」。「天皇を戴いた神の国」としての戦前軍国主義体制を支えるために、小さい子どもたちに教育勅語が暗唱させられたのでした。その肝は、「一度、国家緊急事態が生じたら、永続すべき皇室のために命を捧げよ」という部分にあります。天皇制軍国主義を支える臣民を育てるために、あたかも「宗教情操教育」のようにして国家によって大いに用いられたわけです。
その結果があの敗戦です。1947年の日本国憲法・教育基本法の施行は、天皇主権の軍国体制から国民主権の民主平和体制への大転換・「悔い改め」です。「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」(日本国憲法前文)。
1948年6月19日、「国権の最高機関」(同41条)である国会は、衆議院で「教育勅語等排除に関する決議」を、参議院で「教育勅語等の失効確認に関する決議」を行い、教育勅語を排除し失効を確認しました。日本国憲法・教育基本法に反する内容であるという理由からです。「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」(同98条1項)。
未だに上記の国会決議を取り消す決議は国会でなされていません。政府の教育勅語使用容認の閣議決定は国権の最高機関を軽視しています。百歩譲って三権分立の立場から言ったとしても、政府が国会決議を取り消す提案を国会に清々と上程しなくては筋が通りません。政府説明の要旨をなぞると、①「教育勅語の排除・失効は確認した」けれども、②「教育勅語の内容も部分的に良い」ので、③「教育現場で用いることを否定しない」となります。これは論理的に破綻した詭弁です。①の時点で、③にはなりえません。②も教育勅語以外の教材で代替できます。
事柄への無関心が民主体制を崩壊させる一助となることを憂えています。JK