12月5日の「聖書のいづみ」ではサムエル記上9章22-25節を学びました。預言者サムエルがサウルを民の代表者と共に食事を取る場面です。この食事は、宗教儀式の一環としてなされています。だから、宗教施設である「聖なる高台」(25節)の一部である「広間」(22節)でなされ、祭司でもあるサムエルが食事を仕切ります。神の面前でサウル、サムエル、民の代表者30人(ただし全て男性!)が晩餐を共にしています。ただし全部族の代表ではなく、せいぜいベニヤミン部族だけの代表でしょう。
食事の目的は、民の代表者である30人に対して、民を導く王の候補者であるサウルを紹介することです。それは同時に民と王が神の前で相互契約関係に入ることをも意味します。よく似た場面設定は、出エジプト記24章の、民と神の契約関係樹立にあります。この時も、神の面前で民の代表者たちは共に食べたのでした。契約の意味を含む儀式的食事は、他にも旧約聖書に散見され(創世記26章、同31章、出エジプト記18章)、それが新約聖書の「イエスの食卓」につながっていきます。
サムエルは特別な食事をこの時のために用意していました。24節「時」(モエド)は「定められた時期」を表す大きな単語です。サウルを賓客として遇そうとするサムエルの意思が垣間見えます。そして、それをもって「全イスラエルのための王」という前例のない職務就任をサウルに依頼しているのです。22節「上座」の直訳は、「(先)頭」です。陣頭指揮をする軍人としての王の職務を、示唆しています(8章20節)。
すでにサウルは王就任を断っていました(21節)。就任依頼交渉は困難なものだったと推測します。食事の後、サムエルは自宅にサウルを招きます。自宅の屋上という二人きりになれる場所で、一体一の話し合いが続きます(25節)。ギリシャ語訳他は25節を「人々はサウルの寝床を屋上に用意し、彼は寝た」としますが(口語訳聖書もその読みを採る)、ここは新共同訳のように「サムエルはサウルと屋上で話し合った」が良いと考えます。固辞するサウルを必死にサムエルが説得している場面と考えた方が自然でしょう。
雌ロバを探す物語では中心的役割を果たしていたサウルの従者すらも屋上にはいません。話を終えてサムエルも屋上を後にします。サウルは独りで、神の面前で決断を迫られます。祭司エリの従者サムエルが預言者として立てられた時と、よく似た場面です(3章)。人生の中で人には「定められた時」に独りで神の前に決断をしなくてはいけない場面が訪れるものです。JK