日本聖書協会が31年ぶりに、新しい聖書翻訳を刊行しました。『聖書協会共同訳』です。聖書翻訳には特有の論点があります。古代の文献である聖書をどこまで直訳できるのか。直訳した場合差別語・不快語となってしまう場合どのように翻訳すべきなのか。誰もが参加可能な礼拝での聖書使用を考えた時に、特に問題となるのです。聖書を単なる「古典」と割り切る場合、当時の人々の差別意識を正確に映し出すために、差別語・不快語を用いる立場もありえます(岩波訳、田川建三訳)。聖書が古典でありながら「正典(神の言葉)」でもあると観念するがゆえに、人を傷つけないように十分考慮する必要が、教会に負わされます。
たとえばヘブライ語ツァラアト/ギリシャ語レプラは、ハンセン病を含む皮膚病を指す単語です。この単語を歴代の日本聖書協会刊行の聖書はどのように翻訳してきたのでしょうか。文語訳「癩病」、口語訳「らい病」、新共同訳「重い皮膚病」と変遷してきました。新共同訳は「らい」という言葉がハンセン病患者を差別し苦しめる効果を持ってきた歴史を考慮して、「重い皮膚病」としました。しかし、あたかも二単語(形容詞「重い」+名詞「皮膚病」)あるかのような冗長さと、意味が不正確になった感は否めません。ツァラアトは、「軽い皮膚病」の場合もありうるからです。そこで、聖書刊行会の『新改訳聖書』においては、ツァラアトを音写して「ツァラアト」と片仮名表記しています。
『聖書協会共同訳』は、ツァラアト/レプラを「規定の病」と翻訳しました(レビ記13章3節等、ルカ福音書17章12節等)。旧約律法に規定された病気であるという意味でしょう。礼拝使用のための工夫については評価できます。「重い皮膚病」よりは正確になりました。ただし冗長さはどうしても残ります。
新共同訳の「婦人」は、聖書協会共同訳において「女」に改められました(ルカ福音書24章5節等)。「婦人連合」を「女性連合」に改めた日本バプテスト連盟にとっては歓迎すべき変化です。しかし、「女預言者」はそのまま残りました(士師記4章4節等)。「男預言者」とは決して翻訳しない一方で。これは、女性医師だけを「女医」と呼ぶのと同じ問題です。
ギリシャ語クリストスを「キリスト」(口語訳)ではなく、「メシア」(新共同訳)とヘブライ語へと逆翻訳する慣行も残されました(ルカ福音書2章11節等)。もしその種の逆翻訳が可能ならば、イエスの祈りの言葉におけるギリシャ語「パーテル(父の意)」を、アラム語「アッバ(お父ちゃんの意)」としても良いのではないでしょうか。 JK