前回の続きです。
選挙制度によって議会の議席分布は決定づけられます。そしてそれはどのような社会を望むかということと深く結びつきます。
選挙制度の代表的な二つの型は、小選挙区制と比例代表制です。小選挙区制においては一つの選挙区から一人しか当選しません。フランスの政治学者モーリス・デュヴェルジェによれば「選挙区における当選人数+1の政党数に収束していく」のですから、完全な小選挙区制は、二つの政党しか許しません。いわゆる二大政党制です。英国と米国が典型例です。
小選挙区制は選挙を「勝敗至上主義」のゲームと捉えがちです。そして一人しかいない有力なライバルへの攻撃を促すので対立構造を作り出しやすいものです。1位当選者以外への投票は意味を持たないので投票者のやる気が削がれます。膨大な死票が恨みを蓄積させ分断を根深くさせます。闘技場型議会と闘争的社会です。
「政権交代が容易である」「人為的に過半数を与えるので政権が安定する」という理由は、人々の政治参加の意欲を失わせることや、勝者総取りの社会文化を作るという欠点に優るでしょうか。なお、日本においては「二大政党制すらも実現できなかった」という反省も必要です。
比例代表制は政党ごとの得票率を議会の議席占有率に比例させる制度です。たとえば10%の得票率の政党は、500議席の議会においては50議席を得ます。完全な比例代表制においては、通例8つから10ほどの政党が議会に登場します。そしてどこも過半数の議席を得ない場合が多いので(例えば今回の参院選で自民党の得票率ですら35%)、近い政策の政党同士で連立政権を組むことが常態となります。
比例代表制に対する批判は、「政権基盤が弱い」「野合になりやすい」「政治的意思決定が遅い」などなされます。しかし世界を見渡しましょう。日本ほど住民の幸福感が低い国は珍しいです。逆に幸福感が高い北欧諸国は、みな比例代表制を採り入れています。そして投票率が80%以上、政治参加の意欲も高いのです。それはおそらく多様な小さな声が政治に届いているからだと思います。基本的に比例代表制に死票はありえません。一票は無駄ではないのです。
比例代表制は合意形成型議会を作り、合意形成型社会の形成を促します。じっくり話し合って利害調整をし、なるべく多くの人を利害調整の輪に巻き込んでいくのです。異見を歓迎し、狼と小羊が共に共存できる社会が聖書の示す理想の「神の国」です(イザヤ書11章)。 JK