検事長らの定年延長に内閣が恣意的に関与しうる検察庁法改「正」案について、政府は今国会での成立をあきらめました。この内閣が世論に押される形で法案審議をあきらめるのは初めてです。この七年半、世論が反対すればするほど強行採決をし、世論が忘れたころに選挙で勝つというパターンが繰り返されていました。一体何が変わったのでしょうか。大きく言えばコロナ禍の影響の一つだと思います。
日本社会では珍しく芸能人も「検察庁法改正に反対する」という趣旨の政治的発言をSNSで公表しました。有名人の大きな影響力(多数のフォロワー)も作用し、600万とも言われるツイート・リツイートがありました。その中で少なくとも50万人以上の人は主体的に意思表明をしたと言われています。十万人規模の政治的デモをSNS上で行ったということになります。逆に路上ではなくSNSだから、「集まらないで集まること」ができたとも言えます。
SNS上の政治的デモを社会現象として大手報道も大きく報じました。こうしてテレビ・ラジオ・新聞を主な情報源にする層にも伝播し、世代を超えた反対の意思が形成されました。結果、内閣支持率は急落しました。内閣支持率が30%を切ることは、かつてありませんでした。今まで経験したことのない展開に、最初はタカをくくっていた政府は泡を食って、今国会での法案成立断念に追い込まれました。これまでは政府与党こそSNSでの世論形成に長じていたのですが、逆手を取られた形になりました。
ではなぜ沈黙していた芸能人たちが声を挙げることができたのでしょうか。それは政治が「自分ごと」になったからだと思います。コロナ禍において芸能人たちは仕事を失いました。自分の生活が脅かされる時、政治が身近になります。なぜ医療崩壊が起こるのか。それは小泉純一郎政権以来の福祉予算切り詰め、保健所の数を減らしたことに原因があります。検査を受けたいのに受けられない理由の一つです。
ステイホームを強いられた人々には時間が与えられました。それは生活と政治の関係を考える時間です。長時間労働は、政治参加をする余裕を奪います。忙しさこそが長期政権を支えている政治的無関心の苗床です。良い意味で一人になり、人生を省察する中で、政治に参与していく。芸能人も含む多種多様な職業を持つ人々が、政府の不公正に対して小さな声を響き合わせたのは、コロナ禍の一つの結果です。
旧約聖書の預言者たちは、神の前で沈思黙考をし、政治に参与していく人々でした。もしも彼ら彼女たちがあの時スマホを持っていたら、おそらく王権批判のツイートをしていたことでしょう。#さようならアハズ王 by イザヤ夫妻 JK