2021/08/04今週の一言

旧約聖書には二種類の配列があります。わたしたちにお馴染みのキリスト教配列と、ユダヤ教配列です。その違いの由来は複雑なので割愛いたしますが、真っ先に気づく両者の違いはルツ記の順番をめぐってのものです。キリスト教配列のルツ記は士師記とサムエル記の間にありますが、ユダヤ教配列ではずっと後ろの方に置かれています。ルツ記を除けば、創世記から列王記までの順番は両者同じなので、ルツ記の扱いがことさらに目立つのです。

ユダヤ教配列は次の通りです。

創・出・レビ・民・申(以上第一部:律法)。

ヨシ・士・サム・列王、イザ・エレ・エゼ・ホセ・ヨエ・アモ・オバ・ヨナ・ミカ・ナホ・ハバ・ゼファ・ハガ・ゼカ・マラ(以上第二部:預言者)

詩・ヨブ・箴、ルツ・雅歌・コヘ・哀・エス、ダニ・エズ・ネヘ・歴代(以上第三部:諸書)。

第一部・第二部・第三部は、大まかに書かれた年代順だと思ってください。第三部にあるルツ記は比較的新しい著作です。時代状況はパレスチナに帰還したユダヤ人社会の中で「選民思想」「民族主義」が強まり(エズラ記・ネヘミヤ記)、それが多数派・正統を形成していたころのことです。ユダヤ民族の独立王国を願う声は、ダビデ王朝の復古を期待する声と重なります。このような中、偏狭な民族主義を批判するヨナ書やルツ記が著されます。神は仇敵アッシリア帝国をも愛します(ヨナ書)。またダビデ王の曾祖母はモアブ人だったのです(ルツ記)。

正典を生み出した信仰共同体は懐深く、ヨナ書もルツ記も正典の中に組み入れました。少数であっても重要な意見が残されたことは意義深いことです。

ルツ記は四角囲みを施した「諸巻物」(メギロート)の一つです。ユダヤ教徒たちはこの五つの書を特別な祝祭日にそれぞれ朗読します。ルツ記が読まれるのは「七週の祭」。「七週(49日)の祭」は「ペンテコステ(50日)」とギリシャ語に訳されている、あの祝祭のことです。そう、キリスト者にとっては「聖霊降臨祭」、教会の誕生日です。さまざまな民族的・文化的・言語的背景をもった人々が聖霊によって一つとなった出来事と、ルツ記が指し示している内容は「偏狭な民族主義を批判する」という方向性において一致しています。JK