2021/09/01今週の一言

福音書記者や使徒言行録の著者たちは、編集者でもあります。物語を自分で創作して書き下ろすだけではなく、さまざまな地域の教会が保存している言い伝えを聞き取り調査して、それを取捨選択した上で継ぎはぎするのです。使徒言行録の著者かつ編集者ルカという人物は、どのような視点で筆を進めているのでしょうか。

 一つは、自分が直接見聞きした出来事を重視するという点。使徒言行録の後半部にあたる、「わたしたち資料」という部分において(使徒言行録16章11節、20章7節、27章1節等参照)、ルカはパウロ一行に同行しています。当然ながらその部分の出来事は手厚く詳細に報じられます。非ユダヤ人キリスト者であるルカは、国際派路線の教会指導者パウロの活動を自分自身との関係で描きたいのです。

 ルカの描く歴史は「三人称」ではなく「一人称」の物語です。第三者による客観的中立的視点で抑制的に描かれた事柄の羅列ではなく、自分自身も没入している出来事を自分自身の主観で描いていくわけです。そもそも真空パックに入れられた客観事実としての歴史などというものは存在しえません。必ず著者の主観が入り込みます。このことを積極的に捉えても良いのでしょう。

 パウロの書いた手紙の内容と使徒言行録の記述が食い違うという現象も説明がつきます。ルカについてパウロ神学を理解しない「不肖の弟子」のように断ずる必要はありません。ルカがパウロの主張を自著で批判することもできるからです。二人の関係性は「主治医と患者」かもしれないのですから。

 使徒言行録の前半部分(15章まで)は、ルカ自身が直接は知らない「言い伝え」の継ぎはぎです。この部分をルカは、エルサレム教会に焦点を絞っています。初代教会(ユダヤ教ナザレ派)という社会運動は、エルサレムで発生しましたが発生直後から匿名の信徒たちによって各地に伝播したと思われます。使徒言行録にもそれをうかがわせる叙述があります。アナニアの存在もその一つです。それらの急速な広がりを極力述べずに、ペトロを主役にして、ペトロによってサマリア人や非ユダヤ人が徐々に回心したかのように、ルカはあえて記述しています(8・10章)。

 ルカの取材相手は誰なのでしょうか。おそらくカイサリア教会のフィリポは重要な情報源です(21章8節)。ルカがペトロと直接面識があるかどうか不明ですが、フィリポを通してペトロのことを聞いていたと思います。JK