2022/02/23今週の一言

詩編は「ダビデ五書」と呼ばれます。150編からなる大分な書を内部で5部に区切っていることが、その一つの理由です。もう一つの理由は、「旧約聖書における二大契約」にかかわります。「シナイ契約」と「シオン契約」と言います。前者はモーセという人を仲介者とした、神とイスラエルの間の契約。後者はダビデという人を仲介者とした、神とイスラエルの間の契約です。

シナイ契約は、神に救われたイスラエルがシナイ山でモーセに授与された律法を守る、その信頼関係において救いが継続更新されていくという内容の約束です。シオン契約は、神がシオン山(エルサレム)に建てた王国をダビデの血統の王朝が続く限り救いが継続更新されていくという内容の約束です。旧約聖書の中には、「神と民」または「神と個人」の間の契約は数多くあります。その中で最も大きなものはシナイ契約とシオン契約です。つまり、モーセとダビデは拮抗する二大人物なのです。

創世記から申命記の五巻を「モーセ五書」と呼びます。モーセが五書を書いたという伝承があるし、出エジプト記から申命記までモーセが主人公だからです。「モーセ五書」に対抗して、詩編は「ダビデ五書」と呼ばれます。実際に「ダビデに属する」とされた詩はおよそ半分ありますから、ダビデが著者と言えなくもありません。

「ダビデに属する詩」という表現には、いくつかの異なる意味がありえます。「ダビデが書いた詩」という意味と、「ダビデが所蔵している詩」という意味です。また、「~に属する」という前置詞は、「~に」「~のために」という別の翻訳もありえます。「ダビデに献呈された詩」「ダビデのために作られた詩」という意味とも解しえます。これらすべての翻訳は文法的に正しいのです。

詩編を読む人たちは、このような曖昧・多義的な本文の含みを包括して、「ダビデ五書としての詩編」に親しんでいました。詩編23編もそのような「ダビデの詩」(新共同訳)の一つです。JK