エレミヤは前7世紀半ばから6世紀前半にかけて生きていた預言者です。出身地はアナトト。ベニヤミン部族に属する小さな村です。若い時のエレミヤは、南ユダ王国ヨシヤ王の「申命記改革」を支援していたようです。それは、軍事侵略と中央集権政策です。申命記を掲げ、エルサレム神殿を神格化しながらヨシヤ王は軍事侵略を繰り返し、ダビデの旧領を併呑し、行政官を配置していきます。
ヨシヤ王の死と共にエレミヤの意見が変わります。「神は、北の大国・新バビロニア帝国を用いて南ユダ王国を滅ぼそうとしている。今のうちに神に立ち帰れ」と、王権を批判するようになるのです。歴代の王たちや王権を支える高官たち、さらには故郷の人々でさえもエレミヤを疎んじます。「神が永続を約したダビデ王朝は不滅。神殿を有するエルサレムは不落だ」というわけです。
自国の滅亡を予告するエレミヤは「偽預言者」「非国民」と罵られ、逮捕・投獄され、水牢による拷問も受けます。神からの伝言を預かって、神の意思を神の民に伝えれば伝えるほど迫害される境遇をエレミヤは嘆きます。男らしくない「涙の預言者」です。
歴史はエレミヤの洞察どおりに進みます。新バビロニア帝国は、前587年にエルサレムを陥落させ神殿を跡形もないほどに破壊しました。ダビデ王朝は滅亡します。それは神のダビデへの契約が破棄されたということです。するとエレミヤの預言の内容が変わります。滅亡前の警告から、滅亡後の復活の希望への変換へ。「新しい契約」を神はぺしゃんこにされた民と結び直すというのです。
申命記の流れを汲む列王記にエレミヤは登場しません。エレミヤ書ほど後世の付加が多い預言書もありません。彼に対する評価は揺れています。はっきりしていることはエレミヤの言葉の真実性が証明されたことにより、彼以前の預言者たちの警告が「神の言葉(正典・聖書)」に加わったということです。 JK