2022/08/24今週の一言

ヨエル書は著作年代を探る手掛かりがほとんどない預言書です。ギリシャ語訳聖書に収められていることから、少なくとも紀元前3世紀までには著されていたのではと推測されます。書の内容は、イナゴの大発生という天災に霊感を受けた、「主の審判の日」への警告と威嚇です。

新約聖書との関係では、ペンテコステの日にペトロの説教で引用された3章が有名です。キリスト教会(ユダヤ教ナザレ派)を誕生させる原動力となった聖句です。キリスト教徒の場合、あえて言えば、この箇所以外にはヨエル書にほとんど関心がないかもしれません。

旧約聖書内部での関係では、ヨエル書に非常に興味深い記述があります。「お前たちの鋤を剣に、鎌を槍に打ち直せ。」(4章10節前半)というものです。この言葉は、明確にイザヤ書2章4節およびその並行箇所であるミカ書4章3節と裏返しの内容です。すなわち、「彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする」との聖句と、単語レベルで一致しながら、主張は正反対です。

ヨエル書4章10節の伝える内容は、前後の文脈を見ると、王国以前の部族時代にまで遡りうる、非常に古いイスラエル伝統を反映しています。つまり王制前の常備軍(徴兵制度)が存在しない社会です。王制以前イスラエル諸部族の農夫たちは、侵略者たちに脅かされると、「あなたたちは鋤を剣に、鎌を槍に打ち直せ。」と部族の長に呼びかけられたのでした。募兵制です。

イザヤ書2章4節//ミカ書4章3節は、徴兵制に基づく常備軍を備えた北イスラエル王国も南ユダ王国も列強に適わないという現実のもと、ヨエル書の募兵スローガンをひっくり返します。そして主語を成人男性である「あなたたちは」から、「彼らは」と不特定多数の人々に変えます。戦争報道に触れながら、聖書本文内の対話に思いを馳せます。JK