2022/09/28今週の一言

『ヤバい神 不都合な記事による旧約聖書入門』(2022年、新教出版社。トーマス・レーマー著、白田浩一訳)を読みました。ポップな書名とは印象がかなり異なる本格的な学術書です。しかし、とても読みやすく、読者を惹きつける内容なので、小難しい神学書ではありません。

旧約聖書の中には、現代社会の常識からはとてもではないけれども受け入れられない内容も記載されています。これらの内容を「一言一句誤りのないものと信じ、その命令を実行せよ」というのならば、教会は間違えなく現代社会からそっぽを向かれてしまうことでしょう。それが副題にある「不都合な記事」です。旧約聖書の神はかなりヤバい。本書はこれらの不都合な記事の歴史背景を考証し、理解のための鍵を読者に提供します。聖書記者の主張に賛同しなくても良いから、せめてその主張を正当に理解してから、内容の適否を読者が判断すべきというのです。

目次立てを抜粋すると次のとおりです。「神は男性か」「神は残忍か」「神は好戦的な暴君か」「独善的な神の前に人間は罪人に過ぎないのか」「神は暴力と復讐の神なのか」「神は理解可能か」。これら信仰に対するつまずきをもたらす問いに対して、著者はかわすことなく真正面から説得的に応えます。広範な旧約聖句を紹介しつつ、時に新約までをも包含しつつ、神がどのような方かを論じます。一貫していることは、かつて西欧キリスト教世界が悪用してきたように、旧約聖書の好戦的な箇所を原理主義的に振りかざして、隣人を支配してはいけないという指針です。

「我が子を殺せとか、他民族を絶滅させよとか、恐ろしいことが書いてあるから旧約聖書は嫌いだ」と思われる方にはぜひお勧めしたい一書です。著者も言うように、結局のところ初代キリスト者たちは新約聖書無しにキリスト信仰をかたちづくったのです。あえて言えば新約聖書は旧約聖書の続編にしかすぎません。上記の目次立ての問いは、実は新約聖書にもそのままあてはまるものなのです。JK