今回はハンナhN:j;、旧約聖書の人物です(サムエル記上1-2章)。彼女の夫の名前はエルカナ。夫妻の間には息子が4人、娘が2人おり(2章21節)、最初に生まれた男の子の名前はサムエルです(1章20節)。
エルカナとハンナの間にはなかなか子どもが与えられませんでした。その一方でエルカナのもう一人の妻ペニナには複数の息子たち・娘たちがいました(1章2・4節)。一夫多妻制と家父長制の社会です。ハンナは苦しみます。女性たちは対立構造の中に陥れられ、ペニナもハンナを苦しめます。シロで行われる毎年恒例の宗教儀式が、子どものいない女性を貶めるきっかけになっていたことに愕然とします(同3-7節)。しかも夫エルカナの無理解・無神経な発言が二次加害となってさらにハンナを苦しめます(同8節)。
ハンナはシロにあったヤハウェの神殿で祈ります。願をかけて、男の子が授けられることを祈願します。「もしも男児が与えられるなら、ナジル人(誓願を立てた宗教者)として神に捧げる」というのです(同11節)。このような条件付きの祈りは、神を試しているようで不敬/不純にもみえます。ところがヤハウェの神はそのような彼女を思い出し、彼女に息子サムエルを与えます(同19-20節)。
ハンナは自ら誓った通りにサムエルを神殿祭司のエリのもとに捧げました。ハンナが求めたことは男の子を自分で育てること・自分のものにすること・自分の老後の支えとすることや、男の子にエルカナの家を継がせることではありません。そうではなく不当に貶められた自らの名誉を回復し尊厳を取り戻すことです。
彼女はヤハウェを礼拝し「ハンナの祈り」と呼ばれる歌を歌います(2章1-10節)。「ヤハウェは貧しくし続け、そして富ませ続け、低くし続け、実に、高め続けている」(同7節私訳)。動詞はすべて現在進行中の動作です。神は生きて働いて、救い続ける方です。この歌がエリサベト/マリアに引き継がれます(ルカ1章)。JK