今回はハンナとエルカナの息子サムエル(彼の名前は神の意)、紀元前11世紀の祭司・預言者であり、最後の士師かつ最初に世襲の王を任命した人物です。モーセ(前13世紀)とエリヤ(前9世紀)の間に位置する指導者です。
サムエルはエフライム部族出身(ヨセフの子孫)であり、誓願によって神に捧げられたナジル人です(サム上1章)。彼はシロの神殿祭司エリの自宅に祭司となるべく幼少のころから預けられ、かなりの若さで預言者となります(同3章)。
祭司エリ家の没落と同時にサムエルは全イスラエル(十二部族)の士師となります。彼は全体の中央に位置するベテル、ギルガル(以上エフライム部族)、ミツパ、ラマ(以上ベニヤミン部族)の四つの町を拠点に裁判による統治を行いました(同7章)。
サムエルは部族の連合体であるイスラエル社会を存置したいと願う保守的な指導者でした。各部族に家父長制があったとしても、王制よりは部族間で対等・水平だからです。しかし民は周辺の「普通の国」のようになること、すなわち「世襲の王を与えよ」という要求をサムエルに対してなします(同8章)。
神の不思議な説得により、結局サムエルはしぶしぶとではありますが、ベニヤミン部族(北の十部族の一つ)のサウルに油を注ぎ王として任命します。後にサムエルとサウルは喧嘩別れします(同13・15章)。そもそも王制導入に反対であったので自然の成り行きです。神のみを王とすべきという確信をサムエルは得ます。
しかし神はサムエルに不思議な命令をします。王制廃止ではなく、もう一人の王を任命せよというのです。今度はユダ部族(南の二部族の一つ)のダビデという人物に油が注がれます(同16章)。こうして十二部族連合体イスラエルは、ベニヤミン部族を中心にした北のサウル王朝と、ユダ部族を中心にした南のダビデ王朝に別れ、南北両王朝の熾烈な争いが長年続きます。どちらもサムエルの権威を帯びています。サムエルからすれば、やや迷惑ですが。JK